越智くんの巻き添え
尾八原ジュージ
Day01 身の上
でも落ちてるものは落ちてた。昨日小学校から百メートルくらい離れたところの踏切で、電車にはねられてバラバラになって死んだはずのクラスメイトの越智くんは、ぼくと目が合うと「おっ」と言った。
彼は学校の裏門近く、古い机とか一時的に積んであるあたりに、首だけになって転がっていた。
「越智くん?」
「うん」
「なにそれ、どういう状態?」
「いいからカネッチ、ちょっと拾ってよ。おれ動けないんだ」
手も足も出ないってこのことだな、と言うと、越智くんは「それな」とこたえて笑った。笑うしかないのだった。
「越智くん、死んだんじゃないの?」
「わかんね。おれ幽霊になったんじゃないかなぁ」
でも越智くんの首は重いし、さらさらする髪の感触はあまりにもリアルだし、透けてないし、どうにも幽霊とは思えないのだ。ただ切断面ってものがなくて、血も出ていない。ちゃんとすべすべの皮膚が張っている。
「カネッチ、朝早いね」
「うん。あいさつ運動の当番なんだけど、早めに着いちゃった」
「へーっ、マジメだなぁ」
「児童会入っちゃったから、しょうがないよね」
あんまりよくないと思うんだけど、むかしから頼まれるといやと言えないのだ。だから越智くんが急に「ちょっと聞いてよ」と身の上話を始めたときも、「やだよ」って言えなかった。
おれん家の父ちゃんおかしくってさ、墓場に人形置いて魂注入とか、火事の焼け跡で雨ごいとか、変なことばっかすんの。だから母ちゃんは愛想つかして、妹だけ連れて出てっちゃった。母ちゃんはおれにも「いっしょに行く?」って聞いてくれたんだけど、おれはあえて残ったんだよな。おかしいけどおれは父ちゃんのこと好きだし、ひとりぼっちにしたらかわいそうだと思って。で、それからおれん家、汚くなるしメシ作るひともいねーしで大変なことになって、でもそこは近所のおばさんに教えてもらったりとかして、なんとかかんとかやってたわけ。でもやっぱ限界ってくるもんで、あるとき――や、これはいいや。とにかくさ、変なことばっかやってる父ちゃんの巻き添えになったんじゃねーかなと思うんだよな、おれは。
一気にしゃべって、突然越智くんは黙った。
そこはちょうど、ぼくたちが通う六年一組の教室の前だった。ぼくは越智くんを自分のロッカーの中に入れて上着で隠すと、とりあえずあいさつ運動に向かった。
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