第28話 第一章(続き)
家族の紹介を父、母、長男を順番にすれば、当然、次は、でっかくて頼り甲斐のありそうな次男にお鉢が回って来るのが当然だ。
彼は、現在長男が独立しているせいか、家庭内でも中々の存在感を放っている。体が大きいからというだけじゃないように感じる。割と老成している様子なので、末弟に教育的指導を入れる頼もしい存在だ。年も離れているしね。
そもそも兄弟間で年齢順の意識は希薄なようで、お互いを呼び捨てにしている。二人の兄同士もそれなりに年の差があるようだが、三男坊はかなり年が離れているのに、気にならないようだ。長男など一回り以上年下からだぞ? だけど、呼び捨てにされている割に、二人ともボクちゃんにとってはお父さん代わりの立ち位置なんだよなあ。一人っ子のオレには、よー分らん。
特に次男は、今も同居しているせいか、その傾向が強い。この前の夕食時も、ビシッと叱っておったぞ。ボクちゃんてばオレに醤油に浸したお刺身をくれようとしてさ、猫飼って長いくせにそんなこともしらんのかーとは思ったけど、言い方、ちょい、じゃないな、かなりきつめ。
しかも背が高いから相当上の方から落ちて来る言葉は、怒声でなくとも腹に響く。
「お前、猫を殺す気か? 何べん同じことで注意されたら理解出来んだよ? 人間と同じ味付けは塩分過多でマジで死ぬぞ」
「だってえ、欲しいっていうから……」
「あほか? そこは飼い主としての自覚を持て!」
オレのことを本気で心配してくれているらしいので、叱られてシュンとしちゃったボクちゃんの方は放置プレイだ。三男坊は単になーんも考えてないだけだったのだろうが、そういう無神経さを可愛くも腹立たしくも思っているらしい次男は、頼り甲斐満点だ。お礼代わりに頭を足に
はいお待たせ、お茶目な三男坊、ボクちゃん。言うてみればこの話の主役だ。
うん、兄ちゃん子という時点で、文句なく三男坊だな。そして典型的な末っ子でもある。甘えん坊で落ち着きがない、食事を始め好き嫌いが激しくて、じっとしているより体を動かすことの方が好きで。いやー、思わずティピカル(典型)と叫んだぜ。「にゃーっ」だったけどな。
一緒にいる時間が最も長いであろうボクちゃんを知るために役に立ちそうなものはないか、ボクちゃんの周囲を嗅ぎまわったけれど、これといって特筆すべきモノは見当たらなかった。趣味とか大好きとかなんでないかなあ。同じ年頃のオレはどうだったろうか……ん? しまった、家と学校と塾を往復していただけだった。嫌なことを思い出した……ふんす
玄関にサッカーボールはあったような気もするけど、ボクちゃんのモノと限ったものでもないから確認するには及ばない。だってさ、自分の部屋にサッカーボールとか野球道具とかスポーツ系は、身体動かすのが好きと言う割に何も置いてないんだよ?ボールが彼の物でも、サッカーは〈特別〉じゃないってこった。
あ、スイミグバッグがあったな。これはお稽古事の一つっぽいけど、バッグの上に放置された水泳帽にはプラチナマークが縫い付けられていた。オレの通ったスクールと同じなら、結構上位にいるようだ。だけど、壁に選手のポスターとか何もないから、お稽古の域を出ないのだろう。
それと、NやYのマークがついたバックは置いてなさそうだったので、お受験ボーイじゃないことも分かった。オレの知る限りお受験ボーイだった場合は大層用心が必要だから、そこのチェックは外せない。シーズンに向けて、間違いなく家の空気が段々ピリピリしてくるはずだからね。当たり散らされちゃ敵わないのにゃ。
話を戻そう。お稽古事はスイミングだけか……ということは、スイミングに行く日以外は、帰宅時間が早そうだな。この辺受験する子が多いエリアのはずだ。遊ぶ相手を探すのにも難儀していそうだから、概ね真っすぐ帰って来るだろう。
ふむ……探偵の予測が外れることはないだろう。のはずだ。
続く
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