第25話 第一章(続き)

 屋根を行き交う生き物の気配に右往左往している猫の図、というのも若干情けない様子なのかもしれないが、いやなに、空き巣なら撃退してやろうと思ってさ。猫が? ですとー、いきなり戦力外になるつもりはないんですが? だって、猫キックとか猫パンチとか、高いところから猫ジャーンプとか。仮面ライダーばりに猫にだってなんかしら方法があるはずだろ~が。ふんす


 あれ? 元々こんなに能天気なタイプじゃないはずなのだが……思考も既に猫? まさか猫に憑依して楽天家魂爆裂開花しました? 見たこともない知らなかった自分の本性? に笑いが止まらない。にゃはははははっ、おほんおほん

 まあいい、次は二階の索敵だ。


 って、ここは敵地か? 夕べからこの言葉が絶賛マイブーム中だが、よく考えたら索敵なんて物騒な言葉でなくてもいいはすだにゃ。ん? なんだか独り言が増えているような気がするのは気のせいだろうか。ふん、知ったこっちゃねーやい。どうせ猫語を解する人間もおらんし、幽霊と喋れる人もおらん。考えても解決できないことは放置プレイに限る。ふんす


 二階には、両親の寝室とそれに付随したウォークインクローゼット、次男部屋の二室があった。クローゼット以外は解放されていて、次男の部屋にはティッシュの空箱がぁ~~~しゅばーっ。床が広いぜ楽しいぜ。次男、サンキュウ‼ 全ての床が板の間で床暖房が入る作りらしいが、今は足裏にひんやりと気持ちいい。


 しまった、昨日あれだけ遊んだというのに、今日もうっかりすっかり夢中になっちまった。結構お日様の位置が南中からずれてしまっているではあーりませんか。階段滑りでも相当時間を食ったのだろう。いかんいかん、索敵せねば。気を取り直して(って日に何回気を取り直してんだ?)次男の個室をフンフンスンスン。


 次男はバスケが見るのもやるのも好きなようだ。NBL選手のポスターや海外に行った日本の選手のポスターが壁一面に貼ってある。大学生のはずだよな。今も現役なのか、ユニフォームやなんかが、ベッドの上に散乱している。お、近在の私立大学だね。しかも情報処理系だな。机の上には、オレにも馴染みのある本が沢山積んである。気が合いそうだ。


 次男の部屋で閉口したのは、500mlのペットボトルの空き箱。部屋に入る前から嗅覚的に予感はしてたのに、空き箱だぁと狂喜乱舞して飛び込んだ。当然の帰結としてひっくり返ったのだが、困ったことになった。どうもガーリック風味の駄菓子がお好みのようで、ゴミ箱代わりらしいこの箱の中には、山と空き袋が入っていたんだわ。散乱した空き袋から立ち上る臭気⁉


 人間の時なら美味しそうだと感じたはず臭いなのに、今のオレは鼻が曲がりそうにくさいと感じてしまう。顎がカクッと下がるくらい臭い……多分変顔になっているな。意外な発見があったが、嬉しい事実じゃないことだけは確かだ。


 首を竦(すく)めると、後ろ足をブルブルして砂をかける仕草が自然と出た。臭いモノは埋めるにこしたことはなかろうが、砂はありませんって。この仕草も本能なのだろうか? 次男とは気が合いそうだと思ったけれど、この臭いがする限りあえてこの部屋に来ることはまずなさそうだ。まさか、猫避け? それはないかー。


 オレは飛び散った空き袋を放置して部屋を出た。何しろ臭くて、耐え難い。次男に叱られるかもしれないけど、知らんがな。ゴミ箱を放置したキミの配慮不足だにゃ。うん。猫に元に戻す能力を期待すんな。してないだろうし。


 それにしても、あーあ、味覚や嗅覚も猫になっちゃったのかなあ。イタ飯、全部臭いってことか? 餃子も中華全般もダメじゃん。がっくし……って、そもそも猫は食えないか。はあ、食べる楽しみが減ったのはイタイな。

 気落ちしつつも足の赴くままに一回りすると、何となく腹が減ったような気がして、リビングの水と固形の猫飯が置いてあるところに戻った。



続く

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