前編②

 私のこの小さな“お城”に遠藤十朱とあさんがいらっしゃる!!


 十朱とあさんは雑誌でも度々取り上げられるアンティークショップ『イントゥデタニティ』のオーナーで、その目利きと手腕は業界では有名な方だ。


 私が経営する……少々忙しくはあるが私の他は、週2で入ってもらっているバイトの小夏ちゃんしかいない雑貨屋さん『ラガッソカリーノ』とは格が違い過ぎる!


 でも本当に!!

 十朱さんは店にお越しになられ、私の案内で狭い店の中を見ていただいた。


「うふふ、男の子が好きそうな物が一番多いのね! ひょっとしてご家族に男の子がいらっしゃるの?」


「いえ、今は独りです……十朱さんこそ、いらっしゃるのでは?」


「ええ、息子と二人暮らしなの もう、そんな歳ではなくなったのだけれども幼いころなら息子も目をキラキラさせただろうなって思ってしまって……だからね、

 思わず聞いてしまったの。男の子がご家族がいらっしゅるのかなあって」


 十朱さんはそう言って可愛らしく微笑まれるので、私はつい、口を滑らしてしまった。


「私は……少しだけ結婚していた時期がございまして……1年ほど、相手の連れ子さんと家族になりました。 とても可愛らしい男の子で……別れた後も、いつかはその子にプレゼントしたいと国内や海外で集めた物達が、このお店の始まりでした」



 そうなのだ……離婚してもしばらくの間は、天海の義姉様の計らいで、コッソリ ゆっくんと会う事ができた。


「栞ちゃんとゆっくんを見ていると……なんだか“逢引き”の手助けしているみたい」と義姉様にも言われた位だったけれど……


「ゆっくんは実のお母様に引き取られる事になったの。これがあの子の為に一番良い事なのは栞ちゃんにも分かるわよね。だからどうか辛抱して」と義姉様から泣いて頼まれて、それ以来ゆっくんとは一度も会っていない。


 そのうち義姉様のご主人が海外赴任となり、私は『派遣のお仕事』の谷間の長期のお休みの時には義姉様ご一家の赴任先へ外遊し、義姉様のご自宅を起点に周辺各国の素敵な雑貨を集めて回り、ゆっくんが居なくなりポッカリ空いた心の穴と時間をやり過ごした。


 今から思えばゆっくんは私にとって子供というだけでは無く、ある種、恋人に近い存在だったのだと思う。

 単なる欲望だけで私を娶った“元旦那”から受けた激しい空虚感を埋める為の……



「ごめんなさい! 私、何か立ち入ったかしら?」


 十朱さんの声に私は我に返った。


「いいえ! あの、十朱さんは……今日はどういったご用向きでお越しいただいたのでしょうか?」


 十朱さんは私の手を取って、その大きな瞳をこちらに向けた。


「あなたに二つお願いがあるの! 一つはこの春、高2になったばかりのウチの息子をアルバイトで雇ってあげて欲しいの! あの子はこの業界で働いてみたいという希望を持っているのだけど私のチェーン店では忖度があるでしょ? でもあなたの所なら本当に良いものに触れられるし、あなたの人柄なら安心だから……」


「十朱さん! それは買いかぶりです!!」


「いえいえ! お話はまだあるのよ! この夏の海外買い付けにあなたに帯同していただきたいの! もちろん経費はこちらで負担いたしますし、現地であなたが買い付けた物も一緒に輸入手続きいたしますわ! ねっ! ぜひお考えになって!!」



 さすがに、その場では返事できず、「検討させていただきます」とお返事した。



 十朱さんがお帰りになられた後、


「十朱さんは外遊をエサに、店長とお店のノウハウをすべて取り込んじゃうつもりでは?! 息子さんもスパイとしてやってくるのでは?!」と小夏ちゃんは鼻息が荒かった。


「ウチとあちら様では規模が違い過ぎるから」と一笑に付したが……私にもひとつだけ引っ掛かる事があった。


 十朱さんが陳列されたおもちゃ達を一点一点ご覧になりながらおっしゃったひと言


「ウチの息子も最初の頃は私に懐かなくて……随分と寂しい思いをさせてしまった。そんな時、身近にこんな素敵なおもちゃ達があったら、彼も救われたかも」


「えっ?!」と問い直してしまった私に


「でも、今はとても仲良しなのよ。あの子が居たから、私はここまでやって来られたの! それに引きかえ、あなたはおひとりでずっと頑張って来られた……それはとても大変な事だっただろうとお察しいたします」とのお言葉……


 あれはどういう意味なのだろう??





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