第3話 冒険者エルモ
「いらっしゃいませ! 飯とお酒の『ギルの酒場』へようこそー!」
「おう坊主、いつもの頼んだ」
「はい、エール1杯とオーク肉のステーキ4グレア注文いただきましたー!」
馴染みのお客さん、エルモはいつも開店直後にやってくる。冒険者ギルドから程よい距離にあるこの店には、一仕事終えたばかりの冒険者が良くやってくる。エルモも、そんなお客さんの中の一人だ。
「エルモさん最近来てくれなかったじゃないですか、他の店にでも浮気してたんですか」
だが、最近はエルモの顔を見ることが少なかった。もしかしたら探索中に不慮の事故に巻き込まれて――なんて思っていたが、こうして無事な姿を見せてくれると安心する。
「いや、そうじゃねえんだ。大森林のほうで割のいい仕事があってな」
そう言いながら、机の上にどかっと小包を出す。エリンディルでは概ねこうしてお金を持ち運ぶのが一般だ。
「どうよ」
ひと目見ただけで大量にありそうな小包を前に、俺は目を輝かせた。
「こりゃあすごい、3エリンディル金貨はあるんじゃ?」
「いーや、4はあるな」
エルモはニヤリと笑いながら、自慢げな表情を浮かべている。そして、大森林での冒険譚を語り始めた。数々のお宝、魔物との死闘。俺は、こうして冒険者の旅路を聞くのが大好きだった。
だが、仕事は仕事だ。ちょっとおねだりしてみることにしよう。
「さすがですねぇエルモの旦那! そんじゃこんな注文じゃ足りないでしょう。パーッとやんなきゃ」
「いや、これで十分なんだが......」
「良いダークシープの肉が入ってるんですよ、エールも1杯だけじゃ足りないでしょう」
エルモは、仕方ないな、という仕草をした後、じゃあそれもと注文してくれた。これがエルモの良いところだ。気前がいい。
「はい、追加の注文いただきましたー!」
俺は厨房に引っ込み、ギルとともに追加の注文と料理の準備をする。飲み物やお酒の準備が、主に俺の仕事だ。
今年入ったばかりのエールを木樽から木製のコップへなみなみと注ぐと、シュワシュワと心地よい音を立てながら金色の水面が浮かび上がってくる。
思わずゴクリ、と喉を鳴らして一気に飲み干してしまいたいが、今は業務中、仕事に集中しなければ。
この大陸エリンディルでは、地域差はあれど大体の場所では15歳になれば成人として認められ、結婚もできる。俺はまだ12歳だが、なんでエールを見て喉を鳴らしたかというと、まあ、些細な問題だろう。
そうだ追加の分もあったんだと、エールをもう一杯注ぎ、厨房のギルの方に目をやる。
今年入ったばかりのダークシープの肉が、ジュワジュワと音を立てながらどんどん美味しそうな焼き目を付けていく。
俺も以前食べたことがあるが、入りたてのダークシープは格別に美味しい。なんといったって、噛まずに食べられるほどの柔らかさと口いっぱいに頬ばった時の肉々しい食感は、エリンディル広しといえどここのダークシープだけだろう。
「ほら、できたぞ」
ギルの手際の良さに見とれていると、いつの間にか盛り付けられた料理が完成していた。先ほど注いで来たエールを合わせて、一息に持ち上げるとエルモのところに戻る。
「はい! お待たせしました!」
元気よく声を出しながら、机の上にガチャ、と料理を置く。届くや否やエルモはがつがつと肉を食べ始め、エールを一息に飲み、ぷは、と満足げに顔をほころばせた。エルモいわく、
「前線だとまともな食料にありつけないからな、こうして出来立ての料理を腹一杯頬張れるのが何よりも最高だぜ」
だそうだ。うちの料理が美味しいのもありますからね、と少し宣伝も挟んでおいた。それにしても美味しそうに食べるものだ、冒険者がこうしてうちの料理を腹いっぱいに食べてくれるのは、なんだかとても気持ち良い。
かなりの量があったはずだが、エルモはいつの間にか食べ終わっており、残った骨で歯に挟まった肉を取っていた。
「相変わらず旨かったぜ、ありがとうな」
そういうと料理代を払い、宿屋街へと消えていった。
冒険者は主に二つのタイプに分かれている。そこに根付いて迷宮に潜り続ける者と、定住せず、エリンディルを放浪しながら旅を続ける者だ。エルモはどちらかというと後者のタイプなのだが、この町には良く滞在しているようで、すっかり店の顔なじみとなっていた。
そんな彼がここの料理は美味しいと言ってくれるのだ。きっと、うちの料理はエリンディルの中でも美味しい方なのだろう。
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