得点のコツ

 IELTSはTOEICや英検のような単純に英語力を測る試験に留まらない。得点を稼ぐためには試験の思想を理解して、その思想にうまく取り入るような技術が求められる。具体的には「パラフレーズ」と「リージョン・オブ・アクセンツ」である。

 パラフレーズはとりわけライティングで求められる力であり、具体的には問題文に出てきた単語を類義語・同義語に置き換えながら回答する技である。例えば、出題が「work」に関するものであれば、「employ」「task」「labour」「business」などの単語を用いて回答を作成することである。相当の語彙力が必要に見えて、実は「必ずしも難しい単語にする必要はない」ため、逆に猿でもわかる簡単な単語に置き換えていく手法を用いても十分に得点につながる。例えば「finance」に関する問題に「money」で回答するなどである。使う単語が豊富であればあるほど得点につながりやすい。ただし、「employ」を「employee」に変えるなど語根が同じ場合や、「centre」を「center」に変えるなど単なる表記ゆれの場合は得点への影響はほぼない。「airplane」を「aeroplane」に変えるなど、語形があまりにも似ているのも同様である。


 リージョン・オブ・アクセンツは各国の方言の影響をどれだけ理解できるかを試す力であり、とりわけリスニングでキーになる能力である。前述のとおりIELTSはイギリス英語の試験であり、問題文やリスニングの台本はすべてイギリス英語で書かれているが、リスニング問題を読み上げる声優はアメリカ合衆国を含む多様な英語圏出身者が登場し、それぞれの方言の影響が強く現れた読み方で問題を読み上げる。特によく出てくるのが日本人にとっては鬼門とも言われるオーストラリア訛り、発音がこもって癖があり聞き取りにくいとされるイングランド北部からスコットランドにかけて訛りである。が、これをうまく聞き取れるようにならないとリスニングの成績は伸びにくい。また、わざわざ「問題文をその訛りで読むとイギリスやアメリカの英語に慣れた人間には別の単語の様に聞こえる」ような訛りを持った声優を割り当てたりするので、ある意味確信犯的でさえある。前述のとおりイギリス英語の試験であるから、イギリス式の日付の読み方や時刻の読み方などを頭に入れておき、「声優に関わらず台本はイギリス英語で書かれている」ことを前提に聞き取ることが得点の秘訣である。「日本語の聞き取り試験を仮定して、仮に声優が関西人で関西のアクセントが強く出ていたとしても、問題文まで関西弁でかかれているわけではないはずなので、標準語を関西弁のアクセントで読み上げているに違いない」というような状況だと想像すると分かりやすい。

 なお、出てくる訛りはいずれも「英語が第一言語」の国のアクセントであり、マレーシアやインド、アラブ首長国連邦などの様に「多民族国家の標準語として英語が全国民共通の第二言語として定着しているものの、それぞれの国民は各民族の固有語を第一言語としている」ような国・地域のアクセントは少なくとも筆者が受験した限りにおいては登場していない。そのため、日本人にとって特に聞き取り困難なインド英語やシンガポール英語が襲ってくる、という心配は今のところない。


 余談ではあるが、IELTSではオーストラリア訛りと現代ロンドンの標準語(河口域英語;所謂容認発音とコックニーが折衷したもの)に次いでよく出てくるイングランド北部やスコットランドの訛りは、「About」が「アブート」に聞こえる、米語同様に母音に続く単独子音のRが脱落しないものの容認発音同様にリエゾンはあまり見られないといった、カナダで実際に使われている英語との共通点が多い。このため、カナダで実際に生活していると日本に居た頃よりリスニングは相当簡単に感じられた。

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