IELTSの特徴

 語学力試験には、大きく分けて二つの種類がある。一つがレベル毎に異なる問題が出題され、それぞれの合格・不合格が判定される「検定方式」である。実用英語検定はこの代表であり、「何級合格、何級不合格」という形で語学力を測ることになる。つまり、語学能力は実際の語学力に対して階段状、つまりデジタル的に表現される。これに対し、TOEICのように語学力に関係なく同一の問題が出題され、いくつ正答したかで点数が決まり、この点数によって語学力がアナログ的に判定されるものは「テスト方式」と呼ばれる。IELTSは全員に同じ問題が出題されるテスト方式でありながら、後述する各科目それぞれについて「9点満点中0.5点刻みで評価」されるため、実際の点数はかなりデジタルに近い形で表される。そもそも、問題の難易度自体がかなり高度なので問題数自体が少なめであり、こうなることはある意味必然ともいえる。

 TOEICがリーディングとリスニングが主であり、ライティングとスピーキングは別受験となる形を取っているのに対し、IELTSは4科目全てがセットとなっている。TOEICで高得点を取っているから大丈夫だろうと英語でのコミュニケーションが必要なタスクを任せたところ、会話が全く成り立たずやむなく部署移動となった、という話はよく聞くが、IELTSの場合は会話に関しても一定の能力が担保されるうえ、必要であれば科目ごとの点数を照会することも可能なため、このような事態は起こりにくい。この点でもTOEICより信頼度が高いテストと言えよう。

 各科目で採点されたスコアとは別にこれらを総合的に評価し、再度0.5点刻みの9点満点で採点し直したオーバーオールスコアというものが存在し、基本的にはこのオーバーオールスコアで評価される。どうやら単純な足し算で計算されるわけではないらしく、特定の科目の点数が著しく低いと他で高得点を取っていてもなかなか点数が伸びない。例えば、筆者の場合リーディングは8.0と、ネイティブと同等レベルの読解力を有しているが、他の科目が軒並み不得手であり、大いに脚を引っ張るためにオーバーオールでは6.5と、移民に必要な最低ラインをかろうじて超えるレベルである。

 IELTSには「アカデミック」と「ジェネラル」の二つのモジュールが存在し、アカデミックがTOEFL、ジェネラルがTOEICに相当する。留学ビザの合否にはアカデミックが、就労ビザの合否にはジェネラルが影響するため、移民を行う際にはまず日本でアカデミックで6.0(カナダ)ないし6.5(オーストラリア、ニュージーランド;いずれも筆者が移民を決意した時点でのもの)を取得し、その後現地でジェネラルで同程度のスコアを取得する必要がある。筆者の場合は日本在住中にアカデミックで6.0を取得した後、現地でのアルバイト等の便宜を考えて念のためジェネラルも受験し、6.5を取得した状態で渡加しているが、正直ジェネラルのスコアは活かす機会はなかった。

 TOEICや英検などと異なり、IELTSの成績には有効期限が存在する。二年を経過した場合はそのスコアは0と見做される。そのため、成績を維持するには定期的に受験し直す必要がある。日本で取得したジェネラルの成績は就労ビザ申請時には無効となる見込みのため、ここカナダで再びジェネラルを受験し直す必要があった。


 アカデミックとジェネラルの違いはリーディングとライティングの問題の違いであり、リスニングとスピーキングも問題は共通である。そのため、同じ部屋で両方のモジュールの受験者が同時受験する場合があり、配られた問題文が自身の受験モジュールと同一かどうか確認する必要がある。TOEFLとTOEICは試験の名称自体が異なり、採点方式も異なるためどちらかの英語力でもう片方も推定しようと思えば市販の換算表を使用する必要があるが、IELTSの場合はどちらで受験しても最終スコアの差が最小限になるように調整されている。

 アカデミックの場合、リーディングは学術雑誌や文系の論文など、ライティングは小論文の筆記が要求される。ジェネラルの場合リーディングは広告や新聞記事などの読解、ライティングは企業や自治体などへ意見や苦情の申し立てを行う手紙を書くことが要求される。ジェネラルの方がアカデミックよりも相当出題レベルが低く簡単であるため、同じ受験者が両方受験してもオーバーオールスコアに大きな差が生じないよう、ジェネラルは少しの失点が非常に重く痛く響く採点基準となっている。

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