七章 オランジュのウワサ

第42話 魔法書を買いに



 クマさん子爵の屋敷に戻ってきた。ふぅ。これでやっと、ヒツジ軍団から解放だ。もちろん、すごく可愛いよ? 可愛いんだけど、さすがに百人は多すぎる。


「ガイドアニス。よくぞ、わが子らの初戦成功させてくれたメェ〜。礼をいうメェ。これが謝礼の金貨五十枚メ」

「ははぁ」


 へへへ。金貨五十枚だぜ。


「じゃあ、今回はリゲルもシガルタも活躍してくれたから、金貨二枚ずつあげるね」


 あとはうちの生活費に金貨一枚とっといて、残り金貨四十五枚をギルドに返済だ。けど、返済はマンエンディに帰ってからだな。オランジュにもギルドはあるけど、マン族のやつとは別物だし。


「あれ? もしかして、ビースト国のギルドに登録はできるのかも? そのほうが商売するにも便利かな」

「あっ、じゃあ、アニスさん。みんなで行ってみましょうよ。わたし、こっちのギルドも見てたいです」

「そうだな。めずらしいアイテムも売ってるかもだしな」


 とか話してると、急に兄貴が泣きだした。


「アニス。お兄ちゃんには? お兄ちゃんも活躍したよ? 僕にも金貨ちょうだい」

「何いってんだー! おまえの借金のために働かされてんだろが!」

「くすん。くすん。怒らないで」

「泣きマネすんな?」


 兄貴の場合、泣きマネだとわかってても胸がチクチクすんだよな。弱い者イジメしてる気分になる。美少女顔にもほどがあるって。


「新しい魔法書が欲しいな。お兄ちゃんが強くなったら、アニスも冒険が楽になるよ?」

「むむむ」


 それはいえてる。

 すると、リゲルがこんなこといいだした。


「じつは私、使える呪文がすごく少ないんですよね」

「えっ? プチヒールはしてたよな。それと、シールドか」

「……それで全部です」

「全部?」

「全部です」


 ま、まさかの二つっきりかー!


「あ、でも、魔力はたくさんあるんです。前にギルドで測定してもらったら、魔力1000はあるって。ただ、生来魔法が少ないみたいで。うちは魔法書買うゆとりもないし」


 ここで魔法について説明しよう。


 魔法が使えるかどうかは才能のあるなしで決まる。才能あるヤツは生まれつき、いくつかの呪文を持ってる。それが生来魔法。こういうのは成長とともに自然に使えるようになる。


 あとは後天魔法ってのだ。魔法書を買って学ぶことでおぼえる。これも魔法の才能によりけりで、おぼえられる魔法がかぎられてくる。魔法使いか僧侶なら、基本的な魔法はこの後天魔法で使えるようになる。


 つまり、魔法はあるていどなら金で買える。逆に才能あっても金がなきゃ、使える魔法が少ない。なかなかに世知辛い魔法事情。


「……わぁったよ。毒消キュアくらいは使えてもらわなきゃ、こっちが困る。ギルド行って、魔法書買うか。特別ボーナスだ」

「アニス。お兄ちゃんにも。お兄ちゃんにも」

「……一冊だけだぞ? 金貨一枚までの値段だからな?」


 てなわけで、みんなで街にくりだした。昼にはオランジュに到着してたから、ひと仕事終えても、まだ明るい。そろそろ西陽がかたむくころだ。背の高い樹木がたくさんならぶ森に金色の光がななめにさして、すごくキレイだ。


「フクロウさんの魔法店。オランジュに来たら、ここへ来るのが楽しみなんだ」

「兄貴。ほんとに一冊だかんな? 買う前にあたしに相談すること!」

「うんうん。わかってる。まだ見ぬ魔法よ。わがもとへ来たれ〜」


 絶対、わかってないだろ?


 街の中心の広場にギルドはある。巨木の一本がそれだ。なかへ入ると、樹木のいい香りがするんだよな。


 冒険者ギルドはどの街でも活気づいてる。オランジュはハーピー族の国にも近いせいか、森が居心地いいのか、獣人にまじって、ハーピー族もかなりいる。マン族は少ない。


 受付は鹿族の美女ラブララだ。あたしや兄貴は何度もオランジュには来てるから、ラブララとも顔見知りだ。ラブララはツノがある、とてもめずらしい雌鹿めじかで、そのツノにはたくさんのピアスがついてる。


「あら、アニス。おひさしぶりね。カレンデュラはあいかわらずの美少女ぶりねぇ。そちらは新しいお仲間?」

「うん。リゲルとシガルタ。ところでさ——」


 事情を話して、オランジュのギルドに登録できるか聞いてみる。


「それはギルマスに聞いてちょうだいな」


 オランジュのギルマスはフランダルって男だ。


「フランダルいる?」

「今はお留守よ。なんでも聖女がいなくなったとかで忙しいみたいね」


 聖女か。そういや、マンエンディでも探してたっけ。聖女一人いなくなっただけで、そんなたいへんなのかねぇ?

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