第24話 イノシシは丸焼きしよう



 リゲルの双子の弟。そっくりすぎて、どっちがどっちかわかんないけど、一人は今、イノシシにふっとばされて、地面になげだされてる。


「——タイルー!」


 あ、名前わかった。倒れてるほうがアルタイルで、しびれてるのがアンタレスだ。


 アンタレスはよろめきながら立ちあがり、アルタイルとイノシシのあいだに入った。棒切れふりかぶる手元が赤く光ってる。


 ナイフをなげようとしてたあたしは、思わず、注視してしまった。あれって、もしかして魔法じゃないか?


 まちがいない。アンタレスが木の棒をふりおろした瞬間、ほんの数秒だけど、枝のさきに炎がともった。すぐに消えたけど。


「ブヒヒヒヒヒヒーッ!」

「わー!」


 アンタレスの一撃はイノシシの鼻先にあたったものの、ぜんぜん致命傷じゃない。あたしはすかさず、ナイフをなげた。眉間のどまんなかにつきささる。


「タレス! ぶじか?」

「師匠! 見すてたんじゃなかったのかよ?」

「見すてねぇよ」


 あ、まだビッグワーム二匹残ってた。こっちはベルトにさした短剣をぬいて、左右に切りはらう。野うさぎていどはありそうな虫がひっくりかえった。


「よ、よかった……」

「師匠! あ、ありがと……」


 双子はワアワア泣きだした。十二歳って、あたしと三歳しか違わないけど。子どもだもんな。

 あたしもまだ子どものはずなんだけど、兄貴のせいで早く大人にならざるを得なかったってぇか。


「よしよし。ほら、アルタイル。立てよ。もう大丈夫だから。アンタレス。よくやったぞ。おまえさ、さっきの——」


 いいかけたときだ。とつぜん、アンタレスはパタリと倒れた。顔色が紫だ。ビッグワームにやられた毒のせいだ。


「アンタレス、しっかりしろ!」

「タレス! どうしたんだよ?」


 ポケットに手を入れたあたしは愕然がくぜんとした。しまった。毒消しがない。クマのオベッサをガイドしてるとき、騎士がドククラゲにやられて使ったんだっけ。


「ポーションだ。飲め。今、毒消しがないんだ。とにかく、ダンジョン出て、おまえんちまで帰ろう」


 体力回復だけのポーションじゃ一時しのぎにしかならない。早く解毒しないと、どんどん体力が奪われてく。失態だった。今後は毒消しの予備いっぱい用意しとかなきゃ。


 あたしとアルタイルで両側から支えて、なんとか歩かせる。けど、変な汗かいてるし、なんかだんだん意識がとんでくみたいだ。


「しっかりしろ。タレス」

「師匠、タレス、このまま死んじゃうの?」

「死なないよ。街まで帰れば、毒消しがある」

「それまで、もってくれるかなぁ?」

「ああ……」


 とはいったものの、アンタレスの容態は怪しい。もろに毒液あびてたもんな。ごめん。あたしがもっと早く対処しとくんだった。魔法が顕現けんげんすればいいと思って、ひっぱりすぎた。


 また、ここのダンジョンが、やたらと広いんだよな。なんで? 外から見ても馬小屋ていどしかない林なのに、なか入るとこんな広いの? やっぱ、空間がゆがんでんのかなぁ?


 出てくるモンスターは、あたしが本気になれば、ポポイのポイだ。


 出る。なげる。出る。なげる。出る。なげる。出る。あたしを見るなり逃げる。逃げる。逃げる……。


 やっと、出口が見えてきた。外の陽光がさしこんでくる。


「タレス。もうすぐだ。がんばれ!」

「タレス。死ぬなよぉ。ヤダよ。おれたち、一生の相棒だろ」


 けど、アルタイルの呼びかけも虚しく、アンタレスの呼吸が浅くなっていく。マズイ。ビッグワームの毒液で死ぬことは、ふつうない。たぶんだけど、アンタレスは体質的に毒に弱いんだな。このままだと、死なないまでも後遺症が残るかもしんない。


「タレス。アンタレスゥ。しっかりしてくれよぉ。返事してくれよぉ」


 泣きじゃくるアルタイルのまわりが気のせいか、ぼんやり青く光る。

 これは、さっきのアンタレスと同じ……。


「アルタイル。デトキシファイっていってみろ」

「えっ?」

「いいから、早く!」

「デ、デトキシファイ……?」

「もっと心をこめて!」

「デトキシファイ!」

「もっと!」

「デトキシファイーッ!」


 アルタイルの全身が青く輝いた。その光はアンタレスを包みこみ、吸いこまれるように消えていく。


 アンタレスの目がひらいた。


「あ、あれ……? 楽になった」

「タレスー!」


 やっぱり。思ったとおりだ。


「双子でも使える魔法は違うんだな。アンタレス、おまえは攻撃魔法を使える。それも、剣にからめて使う魔法剣じゃないかと思う。アルタイル、おまえは回復魔法だ。デトキシファイは解毒の魔法だよ」


 たぶん、二人とも魔力の総量は少なめだけど、戦士としての腕もまあまあの魔法剣士むきじゃないかな?


「やったー!」

「おれたちも魔法使えるんだー!」


 つかのま抱きあって喜んでたくせに、二人は急にハッとした。


「しまったー! タレスが歩けるようになったなら——」

「そうだ! イノシシ持って帰ろう!」


 ははは……どこまで食べ盛りなんだ。

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