第19話 生存本能ってやつか?
これだから、狐って悪がしこくて、好きじゃねぇんだよな!
ああー、もうクオームの
——と、そのときだ。
プルプルふるえてたオベッサくん、急にようすがおかしくなった。つぶらな黒いお目々だったのに、赤く光ってる?
あれ? なんか、体も大きくなってる……ような?
うん。まちがいない。見てるうちにも、ものすごい速さで巨大化してる!
デ、デカい。それになんか見ためリアル熊になってない? 世界最大級のオルハイリアーニャ黒熊なみに……いや、それ以上にデカい。洞窟の天井に頭こすってる。てことは、十メートル近い高さ?
その巨体でオベッサは両手をふりまわす。それでなくてもするどい爪のついた熊手をだよ? マジで人間死ぬって。
クオームはひきつって、直前で立ちどまったものの、オベッサのひとふりでポーンと遠くへふっとばされる。ユガルドやゾイムは悲鳴をあげて逃げだした。
そんなことしたら、オベッサくんが人殺し熊になっちゃうじゃないかー! そんなのかわいそうだよ。本人は怖がりでプルプルしてるだけなのに。
あれって、やっぱり恐怖のあまり我を忘れてるのか?
あ、湖のぬしのほうへむかってく。巨大化したオベッサくんをひとめ見た湖のぬし、するりとテラスをおりて一目散に湖のほうへ泳ぎさっていった。
戦わずして勝利!
いや、それどころじゃない。オベッサくん、湖のぬしやクオームたちがいなくなっても暴れ続ける。ドシン、ドシン、壁や天井にぶちあたって、自分自身が傷ついてる。
そういうことか。これまでも、だから失敗ばっかりだったんだ。我を忘れたオベッサくんは暴れるだけ暴れて、味方を全滅させたうえ、自分も傷ついて失神してしまうから……。
「坊ちゃん! オベッサ坊ちゃん!」
「しっかりしてください!」
「もう安全です!」
「ダメだ。これ以上おケガされぬうちに、どうにかしてお止めするのだ」
騎士たちも必死で叫んでるけど、オベッサには届いてないみたい。
これは……どうしたらいいんだろう? このままじゃ、オベッサが大ケガしちゃう。騎士たちも今はなんとかよけてるけど、疲れたら一人ずつ倒れてくよ。
「オベッサー! やめて。もう大丈夫だから、もとに戻ってよ!」
「ウオオオオオーッ!」
だ、ダメだ。あたしが誰かなんてわかってない。そりゃそうだ。お供の騎士のこともわかってないくらいだもんね。これだと、へたするとパパさんさえ認識するかどうか……。
「わ、わわ、ちょ、ちょっと、こっち来ないでくださいよ」
ヤバい。リゲルが危ない。湖のぬしと戦闘してた騎士を回復するために前面に出てたから。騎士は逃げてるのに、リゲル、あわあわしたままその場を動けてない。
もうイチかバチかだ!
「てりゃー!」
リゲルにむかってくデカすぎベアちゃんの足元へ無我夢中でスライディング! そのまま、大木みたいな足にすがりつく。そして、ひっぱる!
木こりが樹木を倒すとこ、前に見た。背の高い木が根本を切られて、ゆーっくり倒れていく。あの感じ。すうーっとよこだおしになったオベッサは顔面から地面に激突した。
「オベッサ……?」
うなり声は聞こえない。
するとまた急激に巨大熊がちぢむ。
キュルキュルキュルキュルルルル……。
よ、よかった。一瞬でもとの可愛いテディベアに。
目まわしてるだけだ。ケガはないみたい。熊の毛皮ってぶあついって聞くからな。革鎧なみの防御力はある。
「オベッサさま。しっかりしてください。オベッサさま? 湖のぬしは行っちゃいましたよ」
ゆりおこすと目をさました。赤く光ってた目も黒に戻ってる。丸くて、つぶらで可愛い。
「……まっ?」
「気がつきましたね。オベッサさまが湖のぬしをやっつけたんですよ」
「くまっ?」
「そうです。あなたがです」
いや、そうですも何も、『くまっ』じゃ意味不明だけど、そこはなんとなくノリで。
オベッサくん。おずおずと起きあがる。まわりの騎士たちから拍手が起こった。おうちの騎士をつれてきてるから、あるじの子息の成功をみんな喜んでる。
「くくくまっ!」
「宝箱の中身、とりましょう」
「くま!」
テラスを渡って奥へ行く。壁の前に宝箱が一つ。オベッサくんのちっちゃな爪のついた手がふたをひらくと、湖水のように澄んだ水色の宝石が現れた。
「オベッサさまは初戦の儀式に成功されました。この宝石はあなたのものです」
「くまー!」
うんうん。よかった。よかった。思いがけない暴れん坊クマさんだったけど、満面の笑顔は最高に可愛い。
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