第17話 湖の洞窟



 はい。つきました。湖の洞窟。


 ここはさ。Bクラスだから、外から見ただけでも、この前ウサギのサユリンちゃんをつれていったCクラスダンジョンとは違うよね。同じ洞窟型ダンジョンでも、なかが薄暗くて、よく見えない。ここは最初からランタンの準備しとかなくちゃ。


 洞窟の入口はそこそこの広さ。馬でも入れそうなふんいきあるものの、すぐに枝わかれして道が細くなるんだ。


 ここは前に一回だけ入ったことがある。B級のダンジョンガイド資格試験のとき。

 試験官といっしょに入って、トラップをどうかわすか、マッピング能力の高さとか、モンスターとの戦闘のさけかたとか、宝箱のあけかたとか、そういうのを見られる。


 そのとき見た湖のぬしっていうのは、大きな大きなウミヘビみたいなもんだったな。あるていどダメージあたえると逃げちゃうんで、そのあいだに奥にある宝箱あけると、湖の石っていうキレイな宝石が入ってるんだ。


 ここの湖でだけとれる宝石だから、売るといい値段になる。たいていの人はアクセサリーに加工して自分で持ってるけど。それを身につけてれば、Bクラスダンジョン制覇したって、ひとめでわかるし。ここらの冒険者のあいだじゃ、ある種、勲章みたいなもんだ。


「じゃあ、騎士のみなさん、戦闘は任せますんでよろしくお願いしやっす。オベッサ坊ちゃんはあたしとならんでまんなかに。リゲルはあたしたちのうしろ。移動はあたしの指示にしたがってください」


 ベアのパパさんを残し、あたしたちはダンジョンにふみこんだ。


 騎士は馬車の護衛に二人残し、全部で八人だ。つまり、二パーティーだね。騎士のうち前の一人、最後尾の一人も松明を持ってるので、あたしのランタンとあわせて、それなりに明るくなってる。


「はぁ……湿っぽくて、薄気味悪い洞窟ですねぇ」と、うしろからついてくるリゲルが、あたしの服のすそをつかむ。あたしはその手をパンとふりはらった。


「まったく、あんたは子どもか? トラップがあったとき困るから、つかまないで」

「ええ? だって、私、C級僧侶ですから、これまでCクラスまでのダンジョンしか入ったことないんですよね」

「何いってんの? これからはAクラスでもついてくるっていったでしょ?」

「そりゃ、稼がないといけませんから。長男のツライとこですねぇ。一個下の妹がいて、ベガっていうんですが。その妹と二人で弟妹を養ってるんです」

「ふうん」


 同じ長男でも、うちの兄貴とは大違いだな。ちょっとリゲルのこと見なおした。


 うちの兄貴なんか、あたしが子どものころから、しょっちょうイジメられるし、変な男につけられるし、だまされるし、むしろ守ってやんないといけなかったもんな。兄貴がぶじに成人したのは、あたしとジャバインがいたからだ。じゃないと、今ごろは人買いにさらわれて遠い外国へ売りとばされてたに違いない。


 洞窟はまっすぐ続いていく。ときどき、枝道。モンスターは戦闘の騎士が瞬殺。この騎士たち、全員A級だ。動きにムダがない。みんなビーストだけど、テディベアだけじゃないみたいだ。


「あっ、突進ウツボの死骸(さっき騎士が倒したやつ)だ。焼いて食ってもいい?」

「アニスさん。野生のモンスターは毒を持ってる可能性が高いです。やめてください」

「なんでだよぉー。いいだろ。あたしがいいっていってんだからー。お腹へってるんだよぉー」


 リゲル相手に見苦しいいい争いをしてると、となりを歩いてたオベッサくんがポッケをゴソゴソした。あたしの目の前に輝くばかりに美味そうなビスケットが——


「うーまーそー!」


 無言でさしだしてくる。


「えっ? くれるの? ほんと? ほんとにいいの? 食べちゃうよ?」


 こっくん。


 なんて優しいクマさんなんだぁ。ありがとう。このご恩は一生忘れないよぉ。


 キレイな刺繍ししゅうのハンカチに包まれたビスケット。クッキーもある。六、七枚あるのを、いっきに口にほうりこんだ。


「モガモガモガ!」

「ああ、アニスさん。よくばるから。はい。水ですよ」

「モグモグ……グモ……ごくん」


 ふうっ。美味かったぁ。おかげで生きかえったよ。

 さきへ進む足どりもかるくなったね。


 こんなに優しい気づかいできるクマちゃんなのに、戦闘は苦手なのかな? なんで今まで初戦成功しなかったんだろう?


 今度こそ、あたしが絶対、成功させてあげるよ。

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