第14話 牢屋の兄貴



 たしかに兄は牢屋に入れられてた。鉄格子のむこうに一人。けど、その鉄格子のこっち側には、わんさかファンがつめかけてるんですけど。


「兄貴! あんた、何やってんだよ!」

「あ、アニス。ごめんね。ダメな兄さんで。でも、僕は無実だよ? ほんとに使いこみなんてしてないんだ」

「そうじゃなく! なんで牢屋とかいいつつの、そこまで贅沢ざんまいさせてもらってんだよ!」

「えっ? 牢屋のなか退屈だなっていったら、牢番さんたちがみんなを呼んでくれたんだ。見て見て。ずっと読みたかった本〜」

「……」


 あーあ。心配するだけムダだったわ。


「……帰る」

「えっ? なんで? せっかく来てくれたのに。お兄ちゃん、さみしいよ?」

「いっとくけどな。ウサギがさみしさで死ぬって、あれ、ガセだからな!」


 叫んでとびだしていこうとしたけど、そのとき、あたしは見たね。むらがる男女をよせつけまいと、牢番よろしくニラミきかせてるのは、銀髪、紫の瞳のわが幼なじみ、ジャバインじゃないか?


「ちょっと、ジャバイン! あんた、昨日から姿見ないと思ったら、まさか、ずっと兄貴に張りついてたの?」

「アニスか」

「何してんのよ? 仕事は? 依頼は?」

「そんな場合じゃないだろ? 見てわからないか? カレンが牢に入れられてるんだぞ? 一昼夜もほっとけるなんて、おまえはほんとに血をわけた妹か?」

「妹だから受付嬢と大ゲンカしてまでムリいって通してもらったんじゃないのさ! でも、来るだけ損だったよ。こっちは必死で金稼いでるってのに。兄貴なんか、牢とは名ばかりの極楽でぬくぬくしてるだけじゃん」


 すると、ジャバインは蒼白になって首をふった。


「この美しいカレンが牢に入れられ身動きとれないんだぞ? 牢番や見張り兵に無理無体されたらどうするっていうんだー!」


 ああ……ほんと、来て損した。バカはもうほっとこ。ジャバインは腕のいいA級戦士だけど、兄貴のこととなると、あさっての方向にぶっとんでくんだよな。ちょっと異常なほどだと思う。


「もういい。勝手にしな。そのかわり、あたしが借金全額払いおえるまで、兄貴はずっと牢屋んなかだかんな? 一生でられないと覚悟しとけ」

「な、なんだって?」

「いやいや。そういう約束だから。な? ホバークさん?」

「うむ」


 ジャバイン、みるみる真っ青になった。今ごろ事態を把握はあくしたのか。兄貴も大バカだけど、コイツもそうとうなバカやろうだ。


「そんな! 一生だと? 一生? そんな……じゃあ、何か? もう二度とカレンと二人でパーティー組んでダンジョンデートもできなければ、魔族の国境戦に二人でお泊まりもできないのか?」

「……」


 いやいや。二人じゃないしな。いっつも、あたしとフルレだっていただろうよ? コイツの頭、一回かちわって、中身とりだしてやりたい。ほんで、そのあとに馬と鹿の脳みそ詰めなおしとくんだ。絶対、そっちのがマトモなんだから。


「そうだよ。もう二度とできない。兄貴に借金あるかぎりな!」


 ジャバイン、うるんだ目で兄貴を見つめていたが、とつぜん、立ちあがった。


「わかった。稼いでくる。待ってろ。カレン。一日も早く、君をここから出してやる。だから、それまで、どうにか自力で操を守っててくれ!」


 いうが早いか、泣きながら走っていった。


 いろいろあったが、結果よし。これで稼ぎ手が一人増えた。ジャバインはA級だから、A級の依頼を受けられる。高いやつだと金貨数枚にはなる。お願いだから、ザクザク稼いできてくれ。頼んだ。


「ジャバ。僕のために、ありがとう。牢から出たら、またいっしょにダンジョン行こうね」


 って、牢屋のなかから呑気に手をふる兄貴。コイツ、ほんとは計算ずくの小悪魔なんじゃないかと、ときどき思う。


 そんなことがあったわけだよ。兄貴はのんびり牢屋で休養。あたしとジャバインはせっせとアリさんのように労働だ。今日こそは大金払ってくれるお客さんが来ないかなぁ。


 おっ? 来た来た。あの豪華な馬車はどう見ても貴族でしょ。今度はどんな子かなぁ? ビースト族かハーピー族ならいいんだけど、このさい、マン族でもいいよ。儲けないと、朝飯もぬきだから腹へって力になんない。


 広場にやってきた馬車はお供に獣人をつれてる。馬に乗った騎士を十人も。これは期待できるぅ〜


 馬車からおりてきたのは、クマだ。モコモコの毛の親子クマ。それもテディベアそっくりのやつ。可愛いー!

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