三章 落ちこぼれのテディベア
第13話 金がない、食いもんもない
ダンジョンガイドを始めて、今日で八日。なかなか順調だ。
といっても、毎日、金貨十枚つんでくれるほど、きっぷのいい客ばっかりじゃない。そんなときはそのへんの商人の子たち集めて、まとめてダンジョンツアーだ。一人銅貨五枚でも十人集めれば小さい銀貨五枚ぶんになる。
「ああっ、やっぱり、あのとき、スノーなんとかかんとかワンコの代金受けとっとくんだったー!」
「金貨百枚でしたからねぇ。アニスさん、借金あるくせにカッコつけすぎなんですよ」
早朝のギルド前広場。
すかさず合いの手入れてくるのは、この前から、うち専用僧侶として雇ってるリゲルだ。金髪碧眼の美少年。なんなら、コイツめあての常連女の子も、すでにいる。中流階級の商人の娘で、自分のおこづかいにぎりしめて、せっせとやってくるんだよ。美少女ではあるが、年齢は五歳。
「うーん。まあ、そう連日、太客が来るわけもないか。小さい銀貨五枚でも、ギルドの依頼よりは儲かってるし」
「ピヨちゃんたちも五日に一度は来てくれるじゃないですか」
「月に六日も特訓なんて、めちゃくちゃ教育熱心だよね」
十二人のピヨピヨを一人前にしごく教育熱心なハーピー族の貴婦人も、うちの常連客だ。昨日、二回めの特訓したので、次は今日ふくめ五日後。
あたしがこんなに嘆いてるのには、わけがある。兄貴が作った借金のせいで金がない。それは当然だ。
でも、初日に金貨十五枚、二日め、七日めに金貨十枚、その他の日にも、それぞれ大きい銀貨一枚ぶんていどの稼ぎがあった。順調に稼いでたんだけど、昨日、家に帰って晩飯食べようと戸棚あけたら……なかったんだよね。
食料がなんにもない!
ウッカリしてた。そういえば、兄貴のことがあってから悩みがつきなくて、食料の買い出し行ってなかった。
ガイドで稼いだ金はその日のうちにギルドに返済してたから、手元にお金がまったくない!
金がない。食いもんもない。
飢え死にするじゃん!
というわけで、今日じゅうにいくらかでも稼いで、食料を買わないと。パンとチーズだ。干し肉やフルーツも。
兄貴はなぜか牢屋暮らしのくせに、あたしよりいい飯食ってるしさ。
いちおう心配だし、二日めのピヨピヨたちを見送ったあと、ギルドに返済行ったついでに兄貴に会わせてくれって頼んでみた。受付のウェーリン・ネトル・ダンバーツ嬢はメガネを押しあげて、冷たい視線を送ってきたね。
「は? 罪人に会いたい? じゃあ、ちゃっちゃっと借金返済してくださいね。全額払うまでは牢から出しませんから。それがギルドの決まりです」
うーん。ウェーリン嬢、まじめだからってのもあるけどさ。前に兄貴にふられてるもんだから、あたりがキツい。
「金貨一千万枚だよ? 一千万枚! 一万枚でも十万枚でもないんだ。そんなの何十年かかるかわかんないだろ! 一生、兄貴に会えないじゃないか!」
あたしは断固、講義する。もう受付カウンターなんか、バンバンたたいちゃうもんね。
「借金の返済と牢屋の面会は別のはずだ! 妹が兄貴を心配して何が悪いんだよ? 今すぐ会わせろ!」
「アニスさん。あなた、もうギルド会員じゃないですよね? だったら、面会なんてできませんよ。帰りなさい。今すぐ、ほら」
「あんたさ。そんなんだから兄貴にふられんだよ! 兄貴の好み、知ってる? 頼れて明るく強い女だってさ」
「な、な、なんですか! この暴れ怪力女!」
「クッソ石あたま性格ブス!」
「うわー! 殺してやる!」
「指一本でねじふせてやんぜ?」
女二人でキイキイいいあってるとこに、たまたま外からギルドマスター、ホバークさんが帰ってきた。さわぎにあきれつつも、おだやかな笑みを見せる。
「ウェーリン。まあいいじゃないか。アニスは順調に借金を返してるんだし、面会くらいはさせてやろう」
「えっ? でも、マスター……」
「いいとも。私がつれていく。アニス、来なさい」
へへへーんだ。ウェーリンめ。ざまぁ。
あたしは口の両側に指入れて、あっかんべえしてやった。
「ありがとうございます。ホバークさん」
「家族を案じるのは当然だ。私もカレンデュラのことは心配してる。彼はまじめな会計士だったのに。ちょうど、会いにいこうと思ってたんだ」
はぁ。ホバークさん。優しいな。
この人はギルドマスターになって、まだ二年しかならないんだけど、人望は厚い。こんなふうに誰にも親身になってくれるからだ。
前任のマルテュスさんもカリスマ性あってカッコよかったけど、ホバークさんを嫌いっていう人はいない。見ためからして、いかにも、いい人って感じのおじさんだ。
さて、ギルドの地下は金庫や宝物庫のほか、牢屋がある。どっちも人を近づかせないよう厳重に警備されてる。
兄貴は牢屋に入れられて、さぞメソメソしてることだろう——って!
な、なんなの? ふかふかベッド。すわり心地よさげな肘かけ椅子。床に散乱した本。その床には毛皮のじゅうたん。むらがる男ども。差し入れスイーツを持って順番待ちする女たち。
パラダイスじゃん!
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