かぼちゃ男爵とパンプキンナイツ
須藤
かぼちゃ男爵とパンプキンナイツ
十月三十一日。街は浮かれていた。
だが、俺たちパンプキンナイツに浮かれている暇などない。男爵から召集がかかった時点で、今年のハロウィンが血で染まることは決まっていた。
「集まったか」
低く唸るような声が、倉庫に響いた。
かぼちゃ男爵。本名を知る者はいない。顔を見た者もいない。巨大なかぼちゃの仮面の奥から、ただ鋭い眼光だけが俺たちを射抜く。男爵は椅子に座ったまま、一本の葉巻を燻らせていた。
「今夜、動く」
男爵の言葉に、俺たち五人のナイツは頷いた。
俺はジャック。パンプキンナイツの筆頭だ。男爵に拾われて十年。この仮面を被り、この街の闇で戦い続けてきた。隣にはスカル。無口だが腕は確かだ。その横にマスク、ランタン、そしてトリック。それぞれに傷を抱え、それぞれに理由があって、この仮面の下で生きている。
「敵は?」
俺が訊くと、男爵は短く答えた。
「キャンディ・シンジケート。今夜、大規模な取引がある」
キャンディ・シンジケート。表向きは菓子の流通を牛耳る組織だが、その実態は麻薬密売組織だ。ハロウィンに紛れて子供たちに毒を配る。許せねえ連中だ。
「子供は守る。それが掟だ」
男爵の言葉に、俺たちは拳を握った。
パンプキンナイツの掟は単純だ。子供を守る。それ以外、何もいらねえ。
夜。街はコスプレした連中で溢れかえっていた。だが、俺たちの目的地は繁華街から離れた港だ。そこでキャンディ・シンジケートの取引が行われる。
「行くぞ」
俺の合図で、五人は闇に溶け込んだ。
港の倉庫。予想通り、見張りが立っている。だが、甘い。スカルが無音で背後から制圧する。一瞬だった。倉庫の扉をゆっくりと開ける。中では、スーツ姿の男たちがトランクを囲んでいた。
「パンプキンナイツ!」
誰かが叫んだ瞬間、俺たちは動いた。
殴る。蹴る。容赦はしねえ。子供に毒を盛ろうとした連中に、情けをかける理由はねえ。ランタンが左のグループを、トリックが右を制圧する。マスクは取引のトランクを確保した。
「ジャック、後ろだ!」
スカルの声。振り返ると、組織のボスらしき男が拳銃を構えていた。
だが、撃てなかった。
倉庫の入口に、あのシルエットが立っていた。かぼちゃ男爵。男爵は一歩、また一歩と歩いてくる。ボスの手が震えた。男爵の存在感が、空気を支配する。
「終わりだ」
男爵の声と同時に、ボスは膝をついた。
俺たちは確保したトランクを開けた。中には大量の偽装された「キャンディ」。これが子供たちの手に渡ることはない。
「燃やせ」
男爵の命令で、俺たちは全てを焼却した。炎が夜空を照らす。ハロウィンの夜にふさわしい、浄化の炎だった。
任務を終え、俺たちは倉庫に戻った。男爵は相変わらず葉巻を燻らせている。
「ご苦労」
短い言葉。だが、それで十分だ。
俺たちパンプキンナイツは、報酬を求めない。名誉も求めない。ただ、子供たちの笑顔を守る。それだけで、この仮面を被る理由になる。
窓の外では、まだ街が騒いでいた。
子供たちが安全に笑える夜。それを守れたなら、俺たちの戦いには意味がある。
「来年も、頼むぞ」
男爵の言葉に、俺たちは無言で頷いた。
かぼちゃの仮面の下で、俺は静かに笑った。来年のハロウィンも、俺たちは戦う。子供たちのために。それが、パンプキンナイツの生き様だ。
かぼちゃ男爵とパンプキンナイツ 須藤 @blendyz
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。かぼちゃ男爵とパンプキンナイツの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます