2.2焦ってねぇ

あー疲れた、と肩をぐるぐる回しながらユーゴは隠し通路を通り家のドアを開けた。


「おい、帰ったぞレイ。学院はどうだっ……た。……は?」


床に散乱するプリントに教科書。

地べたに正座になってガリガリ勉強するレイ。


状況を飲み込めずにいるユーゴはその場に立ち尽くした。


(これはどういう……)


黒いオーラをゴゴゴゴと放つレイはその存在に気づかず黙々と続ける。


「……レイ?」


「……ん?あー、ユーゴ、おかえり」


ユーゴの方を一切見ずにレイは続ける。


「お前にいってたか覚えてねえけど、俺魔法使えなかったらしい。退学は俺が一ヶ月で戦果ポイント700とったらしないって条件つけてきたから大丈夫。テストで首席取ったらとりあえず500もらえるらしいから今勉強中。これから一週間これだからお前はしばらく話しかけんな。以上」


つらつらつらと流れるように説明されてユーゴは面食らった。

レイは相変わらず手を止めない。

ユーゴはそのレイの余裕のなさが気にかかった。


「レイ、いったんそれやめろ。ちゃんと話せ」


「全部言ったって。集中できねえから話しかけんなよ」


「っ、聞かねぇ奴だな!」


ユーゴはレイの腕を掴んだ。

レイはビクッと体を揺らし、ユーゴの手を見つめた後、仕方なくユーゴに向き直った。


「お前が魔法使えないのは知ってたよ」


「じゃあこうなることも分かってたんじゃねぇの?別に心配しなくても俺でなんとかするって。俺ならなんとかできると思ったから任せたんだろ」


「……確かにお前に通わせたラピス学院は魔術ができるのが基本だ。でも、別に魔術を学ぶだけのところじゃない。魔法が使えないだけで退学になるわけない」


「は?俺は教官直々に退学だって言われたぞ」


レイが教官室に突撃した時にはもうすでに俺の退学の話が出てた。

だから入るなり、レイは700貯めてやるから退学はやめろといった。


第三太陽隊が貯めれる戦果ポイントの平均は400。

貯めれるもんならというように教官はその条件を飲んだ。


「月様直々の推薦でお前を入れたんだぞ。教官如きが覆せるわけないだろ」


「…………確かに?」


そうは言いつつもレイの瞳は揺れていた。


「……そんなことより、記憶戻ったんだろ。まだ頭の整理がついてないんじゃねぇのか?」


「戻ったっつっても、俺が魔法使えなくなった瞬間の記憶だけだし」


「いいからもうお前寝ろ!今お前顔キメェ」


「は?!俺のこのビューティーフェイスのどこがキモ、ぶふっ」


首にラリアットをくらってレイはそのまま撃沈。


「俺が明日話聞いてくるからお前はとりあえずいらんことすんな」


プリントの山に埋もれ意識が薄れていくなか、ユーゴの声をぼんやり聞いていた。

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