【#21】もう一度、また二人で

「なんで……なんでなの……!!なんで……に『トリスちゃん』って呼ぶの!?」

 

 トリスタの必死な叫びに対し、俺は完全に頭が混乱させられていた。


(”友達”? ティーシャとトリスタが……?)


 今までのトリスタの態度、一方的に恨んでるようにしか見えなかったんだが……?


 とりあえず、今はもう少し話を聞いてみるか。


「だ、だって、トリスちゃんは……トリスちゃんでしょ?」


 また困ったように笑うティーシャ。こっちの態度はまさしく昔の友達と再会した時のそれだ。


「ね? とにかく久しぶりに会えてよかったよ!! ねぇ、一緒に御飯でも行こうよ? そうだ、アヤカちゃんも一緒に──」


「……とぼけなくていいから!!」


 トリスタは俯いたまま立ち上がり、雨で濡れたように涙でグシャグシャな顔をティーシャへ向けた。


「ねぇ、ホントはもう気づいてるんでしょ? ……いや、んでしょ?」


「な、何が?」


「アンタを魔法罠でハメて、ここに誘拐した犯人は"ワタシ"ってコト!!」


「!!」


 ティーシャは驚いたように目を開いた後、少し後ろめたそうな顔で謝った。


「うん……ごめんね、トリスちゃんの言う通りだよ。実は魔法罠にかかって、気を失う前に思ったんだ。『もしかしたら、この魔法はトリスちゃんのモノかも……』ってね」


 :うそ!?

 :マジかよ!?

 :5年も会ってなかったんじゃないの!? それで誰の魔法か分かるもんなの!?

 :↑それだけティーシャの魔力感知能力がすごいんだろうな……


 ……そうか。ティーシャは今まで気を失っていたワケだが、捕まった瞬間に犯人の目星は大体ついていたってコトか。


 やがて、ティーシャは悲しそうな目でトリスタを見つめて、過去を思い出すように語り始める。


「今から五年前。仲の良い友達だったトリスちゃんが……魔法学院から何も言わずに失踪した。しかも、”禁じられていた『闇の魔導書』を盗み出した”って話も聞いてさ……」


 ティーシャは小さく首を振って呟く。


「信じられなかった……あんなに頭がよくて……そして、なにより仲の良かったトリスちゃんがそんなコトするなんて」


「……でも、実際にやったのよ。もう過去は変えられないわ」


 トリスタはゴスロリドレスの中から古びた魔導書を出し、ティーシャに見えるように抱えて言った。


「これが……その魔導書よ。さっき、そこのアヤカに使った召喚魔法もこの禁じられた魔法の一つ。そういえば、この魔導書が全ての始まりだったのね」


 ツインテールのリボンを解き、荒れたロングヘアーを露わにするトリスタ。


 そして──闇の魔導書の上にポタポタと涙がこぼれ落ちていく。


 それは五年の歳月さいげつの中で溜まった、深い悲しみの涙に見えた。


「ワタシは……闇魔法の道を選んだコトに後悔はない!! でも、たった一つだけ大きな『代償』があるとすれば……それはアンタよ、ティーシャ……!! つまらない嫉妬心しっとしんなんかに惑わされて……昔から一番の親友だったアンタとの友情を失ったのが一番の『代償』だった……!!」


 :泣いてる……

 :なんか可哀そうになってきたわ

 :↑いやいやw 改めて言うけど、結局は自業自得じゃんw?

 :そうだよ。女の涙に惑わされんな


 俺のリスナー達の中でも、トリスタに対する意見は割れていた。


 これまでの流れで同情する者も少しは出始めたが、やはりティーシャをさらった悪事を許せないという人が大多数。当然といえば当然の流れ。


 そんなトリスタが責められる状況の中、ただ一人まっすぐに歩み寄る者がいた。それは──。


「トリスちゃん……ごめんね」


 他でもない、ティーシャだ。


 彼女は泣きらすトリスタの方へ近づくと、そのまま正面から受け止めるように抱擁ほうようした!!!


 ……あの!? これ、配信乗せても大丈夫なヤツですか!?


「ティーシャ……?」


 ティーシャの大きな胸の中で、涙を流しながら見上げるトリスタ。


「ごめんね……気づいてあげられなくて……」


 ティーシャはトリスタの頭を優しく撫でながら、目に涙をにじませて謝罪の言葉をつむいでいく。


「トリスちゃんがあたしのせいでそんな想いしてたなんて……全然気づかなかったよ……きっと、ずっと隠してたんだよね……あたしを傷つけたくなくて、本音を言えなかったんだよね……」


「そんなの……言えるワケないじゃない……!! こんな優しいティーシャにさ……!!」


 トリスタは何度も嗚咽おえつしながら、胸の内を吐き出すように続ける。


「怖かった……ホントは怖かったの……!! どんどん強くなっていくティーシャに……のが!! でも、闇の魔導書を盗んで……一人ぼっちになって……ってようやく分かったわ……!! この五年間、ティーシャのコトを悔やまない日はなかったわ……!!」


「そっか……ずっと一人で苦しんでいたんだね、トリスちゃんは? でも……それも今日で終わりだよ……だってさ──」


 すると、ティーシャはギュッとトリスタを抱きしめて一言告げた。


「今はあたしが……


「!!」


 :あぁああああああああ!!!!

 :ティーシャ……聖女か、あんたは……

 :素晴らしすぎる愛

 

 どこかで運命がズレて、違う道を歩んでしまった二人。そんな二人の道が今、こうして再び交わる事が出来た。


(うぅ、やば……涙出てきた……)


 ちくしょう。俺もさ、心は結構年を重ねたおっさんだからさ、こういうのに弱いのよ。

 この身体になる前に無駄に長生きしてきた中で、だんだんと日々ひび薄れて行った心の熱さ──きっと、こういうのを『青春』っていうんだろう。


 時が止まったように二人が抱き合う中、トリスタが頬を赤らめて一言呟く。


「あのさ……ティーシャ」


「なに? トリスちゃん?」


「もし……もしもよ? もしも、ワタシがもう一度……そう、……もう一度──」


 その時のトリスタは、明らかに言葉を詰まらせていた。


 そのまま顔を真っ赤にしつつも、しどろもどろになりつつも、素直に気持ちを伝えるのが下手くそでも──。


 それでも、勇気を出して言う事に決めたようだ。


……?」


 一瞬の沈黙。


 きっと今一瞬、ティーシャとトリスタは学院時代に”タイムスリップ”でもした気分になっていたかもしれない。それほどまでに、二人の目は若々しさに溢れていた。


 そんな長い一瞬が過ぎた後、ティーシャは──。


「──もちろんだよ、トリスちゃん」


 ティーシャはニッコリと笑った。その答えに対し、トリスタは──。


「……ありがとう」


 トリスタはキラッと光る”うれなみだ”と共に頷いた。

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どうも、酒クズ女サムライです。~呪いの妖刀でTS美少女と化した俺、【酔剣】使いの酒クズ女配信者としてバズリまくる!?~ 深海(フカウミ) @hukaumi

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