欠けた星の祝福

夕凪あゆ

第1話

たくさんの光が届いた夜だった。

スマホの画面が花束みたいに明るくて、

名前の一つひとつが、

「ちゃんと見てるよ」と優しく囁いてくれた。


笑顔のスタンプ、

懐かしい友達の長いメッセージ、

家族の少し照れくさい言葉。

そのどれもが、

わたしの一年をやさしく包み直してくれた。


それでも、

どうしてもひとつだけ――

小さな空白が、心の真ん中に残った。


「あなたからの言葉」だけが、ない。

その事実が、

すべての祝福の後ろで

小さく影を落とした。


たった五文字。

おめでとう、って。

届かなかったそれが、

どうしてこんなにも静かに痛いのか、

わたしは分かっている。

待っていたから。

諦めきれなかったから。


何度も通知欄を開いて、

指が勝手にあなたの名前を探す。

見つからないたびに、

心の奥で「まだかも」と囁く自分がいる。


だけど、

夜が更けるほど、

その囁きも息をひそめていく。

代わりに広がるのは、

少しの寂しさと、

それでもどこかで信じたい気持ち。


ねえ、あなた。

気づいてた?

あなたの“沈黙”は、わたしにとって

世界のどんな言葉よりも雄弁なんだよ。


「今まで誰にも送ってない」

「興味なんてない」

「恥ずかしかった」

理由なんてなんでもいい。

私を拒絶してくれてもいい。

それでも私はただ、

あなたの言葉が聞きたい。


外はもう、午前零時を過ぎた。

――日付が変わった。

カーテンの隙間から、

街灯の光が机の上に落ちている。

誕生日は終わった。

でも、この夜はまだ終わらない。


ろうそくの火をもう一度灯す。

誰もいない部屋の中で、

わたしは小さく歌を口ずさむ。

誰のためでもない、

わたしだけの「おめでとう」を。


その光はすぐに消える。

でも、それはわたしの中に刻まれる。


届かなかった「おめでとう」は、

形を変えて、

胸の奥でそっと燃えている。

それは痛みのようで、祈りのようで、

たしかにわたしを生かしている。


たくさんの言葉をくれた人たち。

笑ってくれた声、

一緒に過ごしてくれた時間。

そのすべてが、

この夜をやさしく包む。


だから今は、

もう空っぽを責めないことにした。

欠けたままで美しいものも、

この世にはある。


心の中もそうだ。

私たちはジグソーパズルじゃない。

一つ抜けた場所があっても、

それを悪いこととは思わない。。

そして不思議なことに、

その欠損があるからこそ、

光はやさしく見える。


この夜も、

そんな風に輝けばいい。


おめでとう、わたし。

届かなかった言葉に泣いた夜も、

それでも誰かを思い続けた心も、

全部、今日の証。


明日、少しだけ強くなれたら、

それだけでいい。


灯りが消えても、

わたしは知っている。

――この胸の奥で、

あなたを想った夜が、

確かに、あたたかかったことを。

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欠けた星の祝福 夕凪あゆ @Ayu1030

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