0章ー2
指の音と同時に、守護騎士団の活躍する姿が映し出される。
そこには二人の騎士が、協力して逃亡犯を捕まえる映像だった。
ロンドン市内に群れるように立つ建物の隙間を、文字通り『縫う』様に二人は駆けていく。
幾ばくか離れて行動する両者を繋ぐそれは糸。
これにより、迅速かつ効率的な追跡が出来るのであろう。
華麗に中を舞ったり、障害物と絡み合い速度を上げたり。
息の合った連携行動に席に着く学生たちは目を輝かせざわめいた。
「早速良い反応だね。まず始めに『守護騎士団(ガーディアン)』。
よく街で見かけるのは彼等でしょう。
主な役目は『英屋内部の治安維持』。
罪人の追跡や逮捕、要人警護、市内巡回。
所属人数は全騎士団の中でも最も多い」
魔術道具で解説を拡声させながら、杖を床で小突き映像の一幕を切り替える。
「こちらは、とある当防犯を捕まえる際の映像だよ。
他にも、式典の騎馬隊に参加するのも彼らの役目だ」
画面が切り替わり、何らかの記念式典が開催されている様子が映し出される。
そこに写るは鬼気迫る追跡劇ではなく、華やかなパレードであった。
正装に身を包んだ騎士と動揺に煌びやかな馬具でおめかしを施されている。
心なしか、その表情は誇らしげだ。
「こちらは守護騎士団の騎馬隊です。
昨年六月、〈ロイヤルアスコット〉での映像だよ。
守護騎士の中でも乗馬を得意とする騎士が務める、式典に花を添える重要な役職です。
もちろん、騎士団には厩舎も存在し、そこでは多くの乗馬用の馬たちが飼育されている。
子供向けの乗馬クラブの先生をやる機会もあったりする。
興味があるならば早い者勝ちだ……と脱線もこのくらいにして次に行こうか」
再び金属の石突きがなる。
すると華やかな行進は突如闇に包まれ、鴉の声が一つ。
現れたのは、不気味な居城――いいや、ちがう。そう会場の誰しもが考えた。
「で、ふん縛られた罪人の行き着く先は?
うーん、じゃあランダ。
ランダ・マクィーン。いるでしょう?」
ランダと呼ばれた少女はわずかに眉を顰めると、大きな目でいぶかしげに教諭を見つめ、静かに、それでいてはっきりと口にした。
「ロンドン塔、ですよね」
その答えに、にこりとグレースは満足そうに笑うと。
指を鳴らし、投影する映像を変えた。
そこにはロンドン塔と、そこに勤務する暗部騎士団が映し出される。
彼らは皆、独特の雰囲気を醸し出しており、生体の鴉やそれに類する装飾具、刺青を身に纏っている。
それを見た多くの学生たちは、映像越しに伝わる圧倒的な雰囲気に息を呑むことになるだろう。
「素晴らしいですね。
もう少し大きな声が出せれば満点。
罪人はロンドン塔に収容され、暗部騎士団による尋問、監視を受ける。
彼等はロンドン塔の象徴である鴉を従える騎士たちだ。
『悪い子でいたらレイヴンがくるぞ!』……聞き分けの悪い子どもを叱る決まり文句だね。
その風貌から少々怖がられることはありますが、彼らもまた騎士。
胸には王国に対する忠義のと守護の念が刻まれて居ることは忘れないように。
ね……さてさて、では、次。行きましょうか」
薄暗い光源が切り替わり、浮かび上がるのは、病院や戦場にて働く医療騎士団立ちの様子。
「白衣の天使とよく言うが、彼等は苛烈だ。
同時に頭脳明晰であり、貪欲な一面も存在する。
というか、そうでないとこの『医術騎士団』は務まらない。
彼等の敵は英国に徒なす者だけではない。
病や怪我、そして心の傷。
一人でも多くの命を救わんとする、騎士たち」
瞬きする度に移り変わる医療現場。
その圧倒的な映像の多さ故に、医療騎士団の苦労が手に取るように解る。
「その勤務場所は多岐にわたる。
例えば戦場。
先の大戦においても彼らは戦地にて負傷兵の治療看護、そして物資の管理等。兵士たちを支える重大な使命を全うした。
ああ、私も彼等に助けられたことがあるんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます