第四十話

 私はオキギ君が作ってくれたサワラの塩焼しおやきを食べ終わると、がぜんやる気になった。よし。あとはパンだけだ。パンの作り方を教えたら、私は国王にたのまれたブリを釣って人間の国に帰ろう。それでもうオキギ君に、私が教えることは無いからだ。


 そうして私はホビットたちを集めて、パンの作り方を説明した。私がここでも作れると思う、パンの作り方を。それは小麦粉を水でこねて、それを焼くだけだ。


 本当はイーストきんを入れたり発酵はっこうさせなければならないのだが、昔は小麦粉を水でこねて焼くだけだったようだ。だから私はホビットたちに、そう教えた。


 するとオキギ君は、つぶやいた。

「うーん……。水を使うとなると、川の近くで作った方がいいのかな?……」


 うんうん、さすがオキギ君。実は私も、そう思っていた。だから小麦粉を持ってみんなで、川に行った。そして小麦粉を水でこねて、オキギ君が火の魔法で焼いてパンを作った。食べてみるとやはりかたかったが、それでもパンの味がした。皆も、美味おいしそうに食べていた。


 その様子ようすを見て、私は決めた。後はブリを釣って人間の国に帰ろうと。なので私は砂浜すなはまで、釣ってみた。でも釣れたのは、サワラだった。もう一度やってみたが、やはり釣れたのはサワラだった。


 なので私は、考えた。うーん、これは小舟こぶねおきに出て釣った方がいいのかなあ?……。でも私は、気づいた。このホビットの国には、その小舟が無いことを。うーん、ホントにどうしようかなあ?……。


 と私がなやんでいると、オキギ君がやってきた。

「どうしたんですか、リーネさん? 何か、悩み事ですか?」

「うん、ちょっとね。沖に出てブリを釣りたいんだけど、そのための小舟が無いんだよねえ……」


 すると少し考える表情になったオキギ君は、話し出した。

「それじゃあ、丸太まるたに乗って沖に出るのはどうでしょう? 実はこの砂浜に時々、丸太が流れつくことがあるんですよ。そしてそれに乗って、沖に出て遊んだことがあるんですよ」


 うーん、なるほど。でも丸太じゃあ、ちょっと不安定だなあ……。と考えていると、私はひらめいた。そうだ! それなら丸太をならべてツタでしばって、イカダを作れば良いんじゃないかと。うん、これだ! これで行こう!

 

 なので私は、森の中に入った。するとイカダにする、手ごろな太さの木もえていた。うんうん、これはイケそうだ。私は右手を手刀しゅとうの形にして、右手に意識を集中して木にそえた。そして、風の魔法をとなえた。

「風の精霊せいれいよ、おどり出せ! ウインド!」


 すると刃物はもののような風で、生えている木を切ることができた。あー。風の魔法には、こういう使い方もあることを思い出して良かったー。そうして私は手ごろな太さの木を、五本切った。そして植物のツタで縛って、イカダを作った。


 更にホビットたちに手伝ってもらって、イカダを海に出した。私はイカダの後ろに右手を入れると、水の魔法を唱えた。

「水よ、我が意思にしたがえ! ウォーター!」


 そして右手を持ち上げるとイカダの後ろの海水が持ち上がり、イカダを少し前進させた。うん、イケる。そして私は水の魔法を使い続けて、イカダを前進させ続けて沖に出た。


 よーし。今度こそブリを釣ってやる! 私は竿さおを振って釣りばりを投げ入れると、魔法を唱えた。

「魚たちよ、このにおいを感じ取れ! キャッチ・ザ・フィッシュ!」


 すると少しして、魚が釣れた。それは七十センチくらいの大きさで、上部は青色で下部は銀色だった。そして上部と下部の間に、横に黄緑色の線が見えた。魚の図鑑ずかんで確認してみると、やはりこれはブリだった。やっとブリを釣った喜びで、私は思わずさけんだ。

「やったー! 八○○万ゴールド、いや、ブリをゲットー!」


 早速さっそくブリを味見あじみしてみたいと思ったが、止めた。これはホビットたちと皆で、食べてみたいと思ったからだ。砂浜に戻った私は、叫んだ。

「おーい、皆ー! ブリが釣れたよー! 皆で食べようよー!」


 そうして私はホビットたちと、ブリの刺身さしみを食べた。それはあぶらがのっていて、口の中でとろけるような美味おいしさだった。それはホビットたちも同じようで、皆は満足そうな表情をしていた。


 私は、そんなホビットたちを見て決めた。よし。もう一匹、国王に渡すブリを釣ったら人間の国に帰ろうと。ここはホビットの国だから、人間の私がいるべき場所じゃない。


 それにもうホビットの皆に色々教えたから、私がいなくなってもえることはないだろう。きっとオキギ君がリーダーになって、このホビットの国を繫栄はんえいさせることだろう。その時に、人間の私がいてはいけない。


 だから私はイカダで沖に出てもう一匹ブリを釣ってくると、オキギ君に声をかけた。

「ちょっといいかな、オキギ君」

「はい。何でしょう?」

「ちょっと私に、ついてきてくれないかな」

「はい。いいですよ」


 そして私は森の中の、断崖絶壁だんがいぜっぺきにオキギ君を連れてきた。うん。さいわい、他のホビットたちはついてこなかった。皆ブリを食べてお腹いっぱいで、休んでいるようだ。


 オキギ君をここに連れてきたのは、理由がある。それは何か、いやな予感がしたからだ。でも私は覚悟かくごを決めて、オキギ君に話しかけた。

「今ままでありがとう、オキギ君。おかげで、ブリを釣ることができたよ。だから私はもう、人間の国に帰るよ」

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