第16話

「良かったんですか?」


 室内は軒下と同様に植物が沢山置かれていた。


 しかし、その全てが吊るされるか、束にしてまとめられていて、植木に入ってるものなどはなかった。


「悪いが、うちにもサマリーはない。危険すぎるからな」


「でしたら、取りに行くにはどうしたら」


「あの森は見知った俺でも危険だ。一人で行ったら間違いなく死ぬ」


 それは脅しじゃない。いたって冷静な事実だった。

 

「そしたらどうすれば」


「一番いいのは森を見知った奴を案内として連れて行くことだな。嬢ちゃんもそれ目的で俺の家にあんたを連れて来たんだろ。俺もあの嬢ちゃんには借りがあるしな」


「じゃあ、案内してくれるんですか?」


「いや、無理だ」


 どうして。タイヨウがそう言う前に男は自身の服をめくった。


 きれいに割れたシックスパック、その真ん中をぶち抜く穴。


「それは……」


 タイヨウの拳なら楽々入るほどの大きさの穴。穴の周りは、灰色に変色していた。


「この前やらかしてな、石化しちまってる。穴も日に日にでかくなってる。もう長くはないだろうな」


 言われるまでもない明らかな重症。それなのに男はどこか達観していた。


 この人が生きるには過酷すぎる世界でによる弊害か、男はすんなりと自身の死を受け入れていた。


「このこと、彼女は?」


「知ってたら、部屋に入れてる」


「伝えないんですか?」


「伝えられるわけないだろ。あの子に、これ以上人を失う悲しみを背負わせたくない。ま、ヤバくなったらここを出て、どこか遠くで野垂れ死ぬさ」


 そんな、そんなの。あの子があまりにかわいそうだ。


 大切な人が、黙って消えて死んでしまうなんて、きっととても辛いことだ。


 はいそうですかと頷いてフウロに隠していられるほど、その覚悟を肯定できるほど、タイヨウは利口でも大人でもなかった。


「本当に、それでいいんですか?」


「ああ。だから、悪いが連れていけない。話はここで終わりだ。嬢ちゃんにはうまく言っといてくれ」


 話はおしまいと玄関に手をかけた男の手を掴む。


「どういうつもりだ?」


 低く警告する声。


 「どうせ死ぬなら、試したいことがあるんです!」

 

 タイヨウはそんな声を一切気にせず声を張り上げた。


「試したいこと?」


「はい!」


 タイヨウが取り出したのは、ホルダーに取り付けていた瓶。


「この中の砂を傷口にかけてください」


「は?」


 タイヨウは有無も言わさず、瓶の口を開き、男ににじり寄った。


「さぁ!」


 「ま、待て、まずそれが何なのか説明しろ!」


「砂男のセウストさんからもらった傷を癒す砂です!」


「なんだそれ、聞いたことないぞ。いや、そういうものもあるのか?」


「ほら、ベッドに寝てください」


「なぁ、本当に効果あるんだよな?」


 男は疑いながらも服を脱いでしぶしぶベッドに寝た。


「分かりません!」


「なっお前!」

 

 タイヨウは瓶をひっくり返して瓶の中の砂を全て傷口に落とした。

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