第15話

「申し訳ございません。タイヨウ様、お嬢様は久しぶりの来客に少し興奮されてまして」


 一人残った騎士が、頭を下げた。もう一人はフウロを追いかけて行った。


「いえいえ、お気になさらず……」


 今更予定を変更することは出来ないが、それでも、タイヨウは、フウロに少し申し訳なくなっていた。


「寛大な対応ありがとうございます。お部屋までご案内いたしますね」


 タイヨウはそのまま夕食を終えて、与えれられた部屋へと案内された。


 それにしても丁寧な対応だ。ただの旅人なのにここまで良くしてくれるとは。


「なんか……お返ししたいよね」


「そうね。ここまでお人好しの人間。久しぶりに見たわ」


 鞄からツキが顔を出す。ツキは人間が苦手だ。


 基本人と話すときは鞄に隠れてやり過ごす。


 人も、他の種族も変わらないのに、不思議なものだ。


 部屋は、ベッドと、簡素な机が置かれていた。


 壁に取り付けられた窓からは広い庭が見えるが、町は見えない。


 それだけこの屋敷の土地面積が広いのだと実感した。


 翌朝、久しぶりの柔らかなベッドで寝ていると、扉をノックする音で目覚めた。


「昨日はごめんなさい」


 扉を開けると、開口一番フウロは頭を下げた。


「いやいや、気にしてないよ」


「そう?」


「うん。森に行くのをやめることはできないけど、心配してくれる気持ちは嬉しかったから」


 タイヨウに身内と呼べる人はツキしかいない。


 ツキ以外の人から心配されるなんてほとんどなかった。


「そう……良かった」


 あどけない、年相応の笑顔。上目で向けられた笑顔をもろに喰らったタイヨウは、胸を撃ち抜かれた気分だった。


「その、お詫びと言っては何だけど……」


 両手を前に組んで俯くフウロは意を決して口を開いた。


「一緒に来てほしいところがあるの!」


 町はずれの丸太小屋。軒下に名前も知らない植物がつるされた家の前にタイヨウは来ていた。


 フウロが扉を叩くと、無精ひげの大男が出てきた。


 ぼさぼさの髪、服も所々ほつれた白の肌着で、その風貌は休日の父親のようだ。


「どうした嬢ちゃん、ん? 見ねぇ顔だな」


 タイヨウを見た男は、眉をひそめた。


「初めまして。タイヨウと言います」


「あのね、タイヨウがね、あの森に入りたいって言うの」


「あの森って……蠱惑の森か?」


 フウロは頷く。あの森にはそんな名前がついていたのか。


「なぁあんた。本気なのか? どうして入りたい」


 タイヨウの前に立つ大男。その身長は見上げるほど大きく、前に立たれ鵜だけで威圧感に押しつぶされそうだ。


「サマリーという果実を探してて」


「よりによってサマリーか」


 男は頭を掻くと、扉を開いた。


「とりあえず入んな。嬢ちゃんはもう帰っていいぞ」


「え、でも」


「いいから。ここからは大人の時間だ」


 タイヨウが入ったのを確認した男は扉を閉めた。


 外で寂しそうに手を伸ばすフウロが閉じられた扉によって見えなくなった。

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