第9話 終わらないトンネル

しばらく走ると――

助手席の女性が、不安げに口を開いた。


女性:「……ねぇ、今の標識……前にも無かった?」

澪:「え?」(ルームミラーを見る)

確かに、さっき通ったはずの「通行止め」の標識が、また目の前に現れていた。

風に揺れる看板。雪に埋もれたガードレール。

全てが――さっきと同じ。


バサラ(低く):「……同じ場所……繰り返してるな。」

澪:「繰り返してる!? ……気のせいじゃなかったの!?」


澪がブレーキを踏み、エンジン音が止む。

静寂の中、雪が降り積もる音だけが響いた。



前方で停まっていた桃太郎が、バイクをゆっくりと進める。

雪の粒が空中で揺れ、まるで空間そのものが歪んでいるように見えた。

空気が波打ち、木々の影が形を変える。

視界の端で、道路標識が一瞬“逆さま”に見えた気がする。


桃太郎(小声で):「……まさか……。」


彼は眉をひそめ、スロットルをひねる。

エンジンが再び唸り、バイクが前へ出る。

澪は不安を押し殺し、アクセルを踏み込んだ。

トラックが後を追い、雪煙が尾を引く。


その先に、闇に呑まれたようなトンネルの入口が見えてきた。

静かすぎる。風の音さえ、どこか遠くに吸い込まれていく。


バサラ:普通には通れそうにもないな….行くしかないか…。」

桃太郎(短く頷き):「ああ。」


トンネルの奥、闇の中――


闇の中で、ひとつのライトが突然点灯した。


その光はまるで“意志”を持つかのように揺れながら、ゆっくりとこちらへ向かってくる。

次の瞬間、エンジンの咆哮が轟き――暴走音が爆発する。


闇を切り裂いて現れたのは、

首のないバイクのライダー。


黒いレザーに包まれた身体。

ハンドルを握る両腕の先、ヘルメットの位置には何もない。

ただ、そこから黒い湯気のような影が立ちのぼり、ゆらめきながら形を歪めている。

その影はまるで、怒りと怨念が“顔”の代わりに揺れているようだった。


(地面が震える)


首のないライダーが、桃太郎へ向かって猛スピードで突進!

エンジンの轟音が獣の咆哮に変わり、ライトが一直線に桃太郎の胸元を貫くように迫る。


桃太郎は反射的に刀を抜き、真横に一閃。

だが、刃は虚空を斬り――すり抜けた。


直後、衝撃波が炸裂。

桃太郎の身体がトンネルの壁に叩きつけられ、コンクリートが崩れる。

火花が散り、壁面にヒビが走る。


倒れ込む桃太郎。

その光景を見たバサラが前に出た。


次の瞬間、ライダーがハンドルを切り返し、

バサラの正面から突進。


バサラ:「チッ……!」


宝剣を構え、一気に距離を詰める。

反動を殺さず、全身の筋力を乗せて袈裟斬り――

だが、それも実体を捉えない。


「――ッ!!」


バサラが交差斬りを繰り出すが、ライダーは光の残像を残してすり抜ける。

その直後、爆風のような衝撃波が逆流。

バサラの身体が後方へ吹き飛び、トンネルの床を滑っていく。


膝をつき、肩で息をする。

倒れはしない――だが、鎧が軋み、壁面に細かい亀裂が走る。


バサラ:「……この圧……冗談じゃない…….人間なら一撃で粉砕だ。」


バサラ:「お前らは手を出すな。この衝撃波を受けたら、骨ごと粉々だ。」


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