第37話
夢の中だ。
朝、トレードをして、午後に家を出ると、有名なお菓子店でお菓子を買い、コンビニでペットボトルの温かいお茶を買って奥湯へ向かった。
コンビニは現実世界でもちゃんとあるものだ。外が寒く感じられる。現実世界と夢の中で、季節は並行している。こちらの世界でも、今は十一月の下旬だ。
現場には、青いビニールシートがかけられている。
基礎が終わって、外壁を作るところだ。
くるみが見ても建築作業は分からないことだらけだが、手を抜いていないことだけは分かる。
ちゃんと綺麗に基礎が組み立てられており、そこには寸分の狂いもない。
そこだけは、くるみでもわかった。木津が現場の総責任者として、仕事をしっかりやってくれているおかげだ。
木津が最初にお任せくださいと言った時、自信満々だったのがわかる、誇りを持って、この仕事をしているのだろう。
そして、顧客満足度も高いのだろう。いつまでもこの世界にいられたら、と思う。
新築の家で、いつまでも暮らせたら、こんな幸せなことはない。ここがもう一つの人生であったとしても、主軸のほうの人生は、お金がない。現実でも、一億出せます、と本当に言ってみたい。
「都築様、こんにちは」
木津がくるみに気づき、現場から出てくる。
「少し休憩にしませんか。お菓子と、ペットボトルのお茶を持って来たので食べましょう」
すると木津はみんなを呼んだ。兼元をはじめとする四人の大工が現場の中から出てくる。
最近は、週に、二、三回、奥湯に足を運び、お菓子を買ってみんなで食べることにしていた。
頑張ってくれているみんなへの、ささやかな気持ちだ。そしてみんな、喜んでくれている。
「今日のお菓子は何ですかね」
一番若くよく喋る大工が言った。
「お饅頭です」
そう言って、菓子店を言った。現実にはないけれど、こちらの世界では有名な菓子店。
ネットでチェックして、買いに行ったのだ。するとみんな嬉しそうな顔になる。
「こんな有名店のお饅頭が食べられるなんて幸せですよ」
そんなことを言い、大工たちは座れそうな道端に座る。木津は、パイプ椅子を持ってきて、くるみに座るように促す。
木津もまた、道端の座れる場所に座っている。私服だが、汚れてもいいパンツスタイルなので大丈夫だという。
お茶をみんなに渡し、饅頭の入った箱を木津に預けて、くるみもパイプ椅子に座る。
「午後の甘いものは、一番体力が回復するんだ」
兼元が言い、嬉しそうに木津から饅頭を貰って食べていた。
「確かに、甘いものを少し食べるだけで、体力が変わってきますね」
他の大工も言う。昼休憩以外にも、午後一回の休憩は必要だろうとくるみも感じていた。
ずっと体力を使う仕事なのだ。流石に仕事が終わる前に、途中で疲れるだろうと考えたから、お茶菓子を持ってみんなに少しの時間休んでもらっている。
多分、くるみがいかないと、みんなは昼休憩以外、通しで働いてしまうだろうと思った。
兼元が、そういう雰囲気を漂わせていたからだ。事実くるみがいないときは小休憩なしだとか。
「では、私もいただきますね」
木津も言って、饅頭を食べている。美味しい、と方々から声が上がる。
「お茶も温かくて体に染みます」
別の大工が言った。
「皆さん本当に無理しないで、休み休み仕事をしてくださいね。私が仕事のことに口を挟むのもいけないことかもしれませんが、皆さんの体調が心配なので。完成予定日は少しくらいずれても構いませんから」
いいえ、と木津はきっぱりと言った。
「ちゃんと一月二十五日に間に合わせます」
ものすごいプロ意識だ。そうして木津は立ち上がると、くるみの元へ来て言った。
「引っ越し作業は何日の予定ですか」
くるみは立ち上がる。
「一月二十八日までには、と。早く住みたいので」
すると木津は真顔で申し訳なさそうに言う。
「お願いがあります。引っ越し作業は二十八日までで宜しいのですが、一月二十九日に、新居に住んでいただけませんか」
「なぜですか」
「こちら側の都合で本当に申し訳ないのですが、お出迎えしてテープカットをしたいのですよ」
「テープカット? あの新幹線開通記念とかでよく見るやつですか」
木津は笑顔で頷く。
「そうです、そうです」
「なんでまた」
「新築完成のお祝いです。特別サービスで、やらせて頂きます」
そんなサービスまであるのか。変わったサービスだな、と思いながら、くるみは頷いた。
テープカットをする機会なんてそうないのだ。是非こちらとしてもやらせてもらおう。
「では、住む日は一月二十九日にします。荷物はその前に運びこんでいいんですよね?」
「もちろんです」
そう言って木津は鞄から引っ越し業者のパンフレットを数冊取り出した。
「うちでご紹介できる引っ越し業者です。是非ご一読ください」
「ありがとうございます。帰ったら見てみますね」
木津は一度、空を見上げ、そうしてくるみに向き直った。
「もうそろそろ、ハガキが都築様の家にも行くと思うのですが、弊社では毎年、その年に家を購入してくださった方をご招待して、クリスマスパーティーとおせちパーティーを主催しています。新宿のホテルを借りてやっています」
クリスマスパーティーは分かる。
「おせちパーティー?」
「はい、お正月の夜に、ホテルを貸し切って、立食型のおせちを提供するのです」
くるみは想像し、思わず笑顔になった。
「へえ、楽しそうですね」
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