第36話
「あの、都築さん」
会社の後輩二人が、昼休みに恐る恐る話しかけてきた。今日もコンビニ弁当だ。
「なんでしょう」
後輩の一人が言う。
「あの、十二月第一周目の金曜日なんですが、合コンがあるんです。数がどうしても足りなくて。都築さん独身なので、数合わせにお願いできませんか」
合コン。後輩二人はまだ三十になっていない。
「私、三十八ですよ?」
すると二人は首を振った。
「大丈夫ですよ、全然いけます」
全然いけないと思うのだが。まあ、することもないし、合コンに参加してみようか。
世の中男より金ではあるけれど、やはり両親がいなくなった時、天涯孤独になってしまうのは悲しい。誰か隣にいてほしい気持ちはある。
「数は何人ですか」
「四対四です。一人どうしても足りなくて……」
もう一人、一番若い二十代前半の後輩が合コンに出席するという。
「合コン相手の会社は?」
「商社です」
有名な会社を言った。悪くないかもしれない。でも、多分相手にされないことも、わかっている。
「わかりました。参加させて頂きます」
すると後輩二人は、顔を見合わせ喜び、ありがとうございますとお礼を言った。
合コンか。遠い昔に一回やったことがあるけれど、その時は白けていた。
クリスマスムードに圧されて、楽しく過ごせればそれでいいや。そう思って、昼食を終え、仕事に戻る。
「そういえば都築さん、リフレッシュ休暇はどうでした?」
仕事中に課長に話しかけられた。この職場は仕事中でも普通に雑談をする。
「大変有意義な時間を過ごさせて頂きました」
「旅行とかに行ったの?」
「いいえ。なにをしていたかは秘密です」
はぐらかす。
一人暮らしを始めた、とは多分誰にも言わないほうがいい。会社の中に悪い人はいないと分かっていても、誰に狙われてしまうかわからないのだ。
女性の一人暮らしは慎重になったほうがいい。
「聞きたいけど、まあ話したくないなら仕方がないね。有意義な時間を過ごせたならよかった」
これ以上聞くとハラスメントの問題が出てくると思ったのだろう。課長は追及してこない。
「ありがとうございます」
そうして仕事に戻る。でも、現実の仕事よりも株式トレーダーのほうが好きだな、と思う。
自分ひとりで好きな時間に株の動きをチェックする。もちろん午前九時から見るのが大前提だが、それでも、家で一人で取引をしているほうが、精神的には楽だった。
しかし、どこも知らない会社ばかりなのが謎だ。
夢の世界だから、仕方がないのかもしれないけれど、現実にある会社であれば、現実でも手を出したかもしれない。
でも今、本当に資金がない。引っ越し作業諸々で、くるみの貯金額はまた減ってしまった。
仕事を終えると、スーパーに寄り、家に帰る。
真っ暗な部屋の、電気をつける。
「ただいま」
といっても誰からも反応がない。出迎えてくれる人がいないのは少し寂しくはあるが、気楽だ。
本当に、自分のことだけを考えていればいい。もちろん実家には時々電話を入れているが。
レトルトのシチューを食べて、広めのお風呂に入る。夢の世界でのお風呂よりは多分小さいが、それでも足は伸ばせる。
ゆっくり疲れをほぐしていく。疲れというより、開放感が物凄い。
そうして、親と暮らさなければならない三年後を想像すると、今から憂鬱になる。
三年。三年は楽しもう。
そう気持ちを切り替えると、髪を乾かしボーっとする。買ったグリーンの遮光カーテンは、部屋によく馴染んでいた。落ち着いた色合いで、見ていると気分も落ち着いてくる。
マンションは横に反響するから、隣の部屋の人たちの食器のこすれる音や、スプーンか何かを落とす音などもよく聞こえてくる。
そして、その生活音に安心していた。やっぱり、なにも聞こえてこないと不安になる。
だが、一人は楽しい。明日は休日。リフレッシュ休暇のおかげか、体の疲れはあまりない。
ここには鼠も、蜘蛛も、変な虫もいない。安心して毎日を過ごしている。
そして、合コンはもう来週だ。着ていく服を選ぶと、布団に入る。なぜだか夢が迫ってくるような気がした。
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