ガチャリッ。扉を開ける。

 ガチャンッ。扉を閉める。


 再び訪れた廃工場は相変わらずの荒れ模様で、隙間風では換気のできない籠った空気が充満していた。


「この時期でよかった」


 前回来た時言わなかったことを今回は口にする。

 夏だったら熱いわ臭うわで散々だっただろうな。


「追いかけてきた人たちはいないのだわ」


 カバンの中から周囲を見渡し生首のエリスが呟く。

 よく寝たからか今は意識がハッキリしてるようだ。


「定期的に集まってはいるみたいだけど」


 増えてるタバコの吸い殻は既に火が消えて湿気っている。

 朝露に晒されたのは明白で、それまでにヤンキー達がここを立ち去った証拠でもあった。


「エリスの胴体とカボチャ頭はそれがあったからここ離れたんだと思う」


 壁に沿って設けられている階段を一段一段慎重に登って管制室へ。


「私達がお菓子屋さんに行った時はまだここにいたんじゃないかな?」

「よくそこまでわかるのだわ」

「なんとなくだけど」


 実際は気配ぐらいしか飛ばせないっての聞いて、じゃあお菓子屋さんの時はタイミング的にここいたからそれ感じ取ったんじゃないかって推察したんだけど。


「まぁ、探偵の勘ってやつね」

「すごいのだわ、探偵のカン」


 エリスに伝えてないし今さら説明してもだしで言わないでおく。


「わざわざ畳んだ服袋に入れて隠してたぐらいだし、もしかしたらまた戻ってくるかも知れないから」


 あるいは未だ定期的に訪れている可能性を考えて。

 管制室の隅。写真だけ撮って盗まれたと勘違いされないよう回収せずにいたエリスの私物。

 よほど入念に探さないと見つからないような場所に仕舞われた袋の中に。


「誰かが来たって目印」


 エリスの瞳と同じ輝きを放つ青い石の指輪を入れる。

 ご丁寧に『お探しのモノはコレですか?』と書かれた紙を貼り付けて。



 十一月二十三日。朝焼け直前。

 今後の出方を伺うことにした。

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