筋書き

 人生は筋書きの無いドラマだとテレビか本で見たことがある。

 何事も思うようにいかず山あり谷あり。

 時には理不尽な困難に直面し膝つくこともあるってのの例えだけど、筋書きあってこそのドラマだと思ってる私からすれば素直に頷けない言葉であった。


「あったあった」


 四つ角のお菓子屋さんにまた訪れて店先に立つ。

 店主さんに撮影許可をもらってからスマホを構える。


「エリス見える?」


 手作りの立て看板。

 表のラインナップは変わっていたけど裏側は前チラッと目に入った時と同じ。


「ほんとなのだわ。なにか描いてるのだわ」


 廃工場で見たのと似た紋様を確かめることができた。


 もっと早く思い出してれば昨日あちこち回らなくて済んだのになとパシャパシャ写真を撮る。

 忘れモノも探しモノもどうしてフッと気が抜けた時に思い出すんだろう。一生の謎。

 店主さんへお礼とケーキとタルトを、イートインスペースで食べたかったけどエリスがいるから、お持ち帰りにして店を後にする。


「エリス何か見覚えない?」

「うーん……似たようなのはあるけど同じかどうか……」


 カバンから外を覗く生首にスマホを見せながらひと気のない小さな公園まで歩く。


「似たようなのはどういうの?」


 途中自販機で飲み物購入。

 エリス用のストローは……ちゃんとあるね。


「移動する時に使うのだわ。紋様を描いてれば別の紋様からそこに行けるのだわ」

「ワープみたいなものか」


 ベンチに座って早速さっき買ったスイーツ達とエリスを外へ出してあげる。

 この位置ならハロウィンのカボチャ色の髪したチャイニーズマフィア風の女が一人スイパしてるようにしか見えない。


「いいなそれ。どこでもなドアみたいで便利そう」

「でもこっちの世界じゃ力が足りなくて気配を飛ばすぐらいしかできないのだわ」


 二人分貰ってたフォークの一方をタルトに。一方をケーキに刺して自分の口とエリスの口に運ぶ。


「気配を飛ばす、か」


 それなら私がお菓子屋さん行ってから感じてたガサガサも、エリスが廃工場で感じたボワッも実体の無い飛ばされた気配を感じ取ったからなのかも知れない。なんて考えながら。


「ドラマみたいにはいかないなぁ」


 人生は筋書きの無いドラマである。近づいてるのか、遠ざかってるのか。

 それがわかる程度の筋書きはほしいんだけど、と。

 自販機で買ったお茶を一口飲んだ。


 十一月二十日。三時のおやつ前。

 モノは試しでエリスに教えてもらいながら地面に紋様を描いたが何も起こらなかった。

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