焚き火
「いくつになった?」
おにぎりとカップ酒、タバコと封筒の入ったコンビニ袋を受け取って浮浪者が私の顔を覗き込む。
「今年で十年目かなぁ」
「探偵業の話じゃねぇ」
一枚、二枚、三枚、四枚……。
封筒の中の一万円札をキッチリ五枚数えてからカップ酒のフタを開ける。
「年齢の話? 乙女相手にデリカシーないね」
「乙女って歳かよ」
「知ってるなら聞かないでくれる?」
次はコレのオイルも頼むわと見せられたライターは随分な使い古しで、橋の下での生活が始まる前からの持ち物であることが伺えた。
「ったく、生意気になったもんだ。初対面の時はもっと」
「可愛かった?」
「小生意気だった」
「ちょっと」
目の前の男性は浮浪者であり情報屋だ。
初めて顔を合わせてから十年。探偵事務所としてならそれ以上の付き合いのある人物で、開業してすぐ受けた依頼。
失せモノのオイルライターを見つけたのを縁に協力してくれるようになった経緯がある。
「ただの世間話にそんな怖い顔すんなよ」
「させてんのはそっちでしょ」
もちろんそれは前任の探偵が請け負った仕事ではあるんだけど、引き継いだ私とも関係を続けてくれている。
「それで何かわかった?」
「ほらよ」
背後にあるダンボールハウスから持ってきたA4サイズの茶封筒を受け取って中身を確認。
入っていたのは胴体だけで歩く不審者とカボチャを被った不審者の目撃情報と具体的な時間。身を隠すにはもってこいの場所が記された地図。
「また変なの探してんだな」
「まーね」
口は悪いけど仕事は丁寧なんだからと心の中で褒めて大切に仕舞う。
明日からはコレを参考に探し回ってみよう。
「あと」
「そっちの方は進展なしだ。悪いな」
ここに来たもう一つの理由。
生首のエリスの胴体探しとは別の、何年も前から情報収集してもらってる案件のことを聞こうとして先手を打たれてしまった。
私が渡した封筒から差し出される三万円は、その分の返金だろう。
「……いいよ。受け取って」
「でもな」
「特別手当てってことで」
それを押し戻して笑顔を作る。
ずっとこんな調子だからわかってはいたけど、やっぱり、少し残念。
「……さっき十年って言ってたが、見習い期間抜きにしたら何年になる?」
「七年かなぁ」
「そうか。もうそんな経つのか」
お互い同じ人物の姿を思い浮かべて押し黙る。
「……それじゃ行くね。また何かあったらよろしく」
「まぁ、気ぃつけてな」
断ち切るように別れを告げて踵を返す。
「……もがみもなにか探してるの?」
橋の下を出る直前。
話してる間大人しくしてたエリスが声をかけてくる。
「前任の探偵。私に仕事をくれた人で、あの事務所を譲ってくれた人で」
パチリッ。
「ある日突然、姿を消した人」
暖を取るため燃やされた焚き火で、木材が弾けた。
十一月十四日。アフターファイブ。
私は自分の探しモノの消息を未だ掴めていない。
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