落下

 ベッド代わりにしてるソファーから身を起こす。

 机の上にはノートパソコン。

 シャットダウンを押したのにスリープモードになってるそれを立ち上げれば、なかなか寝付けずやっていた今回の依頼のまとめがデスクトップに残されていた。

 フォルダをクリックして展開。

 進展状況はまずまず、と言いたいとこだけど。


「もうちょっとすんなりいくと思ってたんだけどなぁ」


 聞き込みに手応え無し。ネットに目ぼしい情報無し。

 首の無い体なんて目立つモノ探してるって考えるとあまり好調な滑り出しとは言えなかった。


「こればっかりは仕方ないか」


 マイナスに傾きそうな気持ちをため息で持ち直す。

 物事は想定通りに進まない。

 なんでそんなってとこで見つかってこその探しモノ。

 普段の進み具合もこんなものかって考えれば平常運転だ。

 画像ファイルを開く。

 表示されるのは見知らぬ誰かと誰かが仮装をエンジョイする姿。

 別の世界からわざわざ来てしまうほど賑やかなハロウィンのイベント。

 エリスが参加して体を見失ったそもそもの原因。

 開催された日時と場所さえ把握できていれば検索一つで当日の写真や動画が手に入る。

 個人情報だだ漏れはSNSの悪い部分だけど、探しモノを生業とする身としてこれほど便利なツールもない。

 難点なのは玉石混淆の中からお目当てのモノを精査するのが結構手間ってこと。

 そこはまぁ、時間を見つけてやっていくとしよう。


「……んっ、んんっ」


 いい加減身支度を始めるかってタイミングで向かいのソファーから声がもれる。

 ノートパソコン越しに生首のまぶたが開いていくのを確認し、改めて生きてるんだなと実感した。


「おはようエリス」

「……あれ、ここは……もがみの家?」


 青い虚ろな瞳のエリスに首を傾げる。


「何か夢でも見た?」

「ユメ……って?」


 ピンと来てない様子に寝ぼけてるのかと思ったけど、いや。


「さっきまでどこにいたの?」


 昨日の様子を思い出して聞き方を変える。

 こっちの世界にとってのレモンが別の世界では爆発物だったように、私達が夢と認識しているものがエリスにとってもそうだとは限らない。

 その辺りの説明やすり合わせは後回しで内容が鮮明な内に共有してもらう。


「……外にいたのだわ。体の上に乗って、歩いてたら、ポロって」


 たどたどしく。まるで初めての体験を振り返るように語る。


「自分の首が、落下して……」


 私にはそれが『体からの視点』に思えた。



 十一月六日。朝食前。

 夢は人間含む一部の生物しか見ない。

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