編集者との対決
来社当日。アキラは生まれて初めて、出版社が集まるような都会のビルディングに足を踏み入れた。
案内されたのは、ノベル・アトラスの編集長、佐倉ミホという女性が待つ、会議室だった。
佐倉編集長は、30代前半。切れ長の目に鋭い知性を宿した、キャリアウーマンといった風貌だった。
「藤堂アキラさん。ようこそお越しくださいました」佐倉編集長は、微笑んだが、その目は笑っていなかった。「単刀直入にお伺いします。貴方の小説は、本当に貴方が書かれたものですか?」
アキラは深呼吸した。ここで動揺したら負けだ。
「はい。全て、俺が書きました」
「嘘を仰らないで。これだけの量を、このクオリティで。しかもジャンルをまたいで同時に38作品を連載するなど、人間の脳が処理できる限界を超えています」
佐倉編集長は、アキラの目の前に、AI生成を疑う根拠として、生成AIが持つ「文体の癖」を詳細に分析したレポートを提示した。
「このレポートによると、あなたの作品群には、統計的に極めて高い確率で共通する特殊な言語パターンが検出されています。これは、特定のAIモデルが生成した文章に酷似しているものです」
アキラはレポートを一瞥した。確かに、AIには無意識の癖がある。
「その通りです」アキラは開き直った。「俺は、AIを使っています」
佐倉編集長の表情が凍りついた。
「しかし、AIの文章をそのまま投稿したわけではありません」
アキラは、自分の戦略を語り始めた。
「俺の仕事は、AI小説編集者です。俺自身には、天才的なアイデアや、流麗な文章力はありません。しかし、読者が何を求めているか、どのプロットが受けるか、いつ投稿すれば最もPVが伸びるか、という市場分析と編集能力には自信があります」
彼は、AIが作ったプロットをどう修正し、どのキャラ設定を強調し、どの台詞回しを微調整したかを、熱弁した。
「AIはあくまで、無尽蔵の言葉の素材です。俺は、その素材を、読者の求める形に編集し、構築し、商品として完成させる役割を担っているんです。小説のアイデアを考え、プロットを設計し、タイトルの煽り文句を工夫し、連載スケジュールを組む。全て、俺のクリエイティブな仕事です」
アキラは佐倉編集長を真っ直ぐ見つめた。
「AIという巨大な力を、作家の道具として使いこなしているのは、俺だけです。俺はAIに『小説』を作らせているのではなく、AIを道具として『作品』を『世に送り出している』んです」
静寂が訪れた。佐倉編集長は、アキラの言葉を噛み締めるように、沈黙していた。
そして、彼女の顔に、張り詰めていた表情が崩れ、笑みが浮かんだ。
「……面白い。大変、面白いです、藤堂さん」
佐倉編集長は、手を叩いた。
「ノベル・アトラスは、作家にAI利用を禁止していません。読者が、その作品を『面白い』と評価し、対価を支払うのであれば、その創作過程は問わない。それが、サイトの理念です」
彼女は真剣な眼差しで言った。
「貴方は、AI時代における新しい『作家』、あるいは『編集者』の形を示した。既存の作家たちは、貴方をずるいと言うでしょう。しかし、貴方の登場で、彼らは『人間でしか書けないもの』を考えざるを得なくなった。業界全体が、揺さぶられたんです」
佐倉編集長は、一枚の企画書をアキラの前に差し出した。
「藤堂アキラさん。貴方の作品を、弊社から書籍化しませんか?」
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