第2話 ほ、本日は予定していたどおり、召喚魔法の実習を行いますぅ

「ほ、本日は予定していたどおり、召喚魔法の実習を行いますぅ」


 天然アフロにビン底眼鏡という様相の舘林かんばやしあやは、彼女が担任しているクラスの生徒に向かってそう声をかけた。


 ここは、横浜にある清蓮学園高校――旧武道場を改造し、中央に大きな魔法陣が描かれた演習場。おそらく世界に一つしかない、召喚魔法を行う専用の建屋だ。


「メグちゃん、なんかワクワクするね!」


 初めての召喚実習でやる気を出している亜麻色の髪をツインテールにした童顔、藍川あいかわマナミが、仲良しの大埜おおのメグミにそう声をかけた。


「召喚ね……」


 メグミは(面倒くさいなあ……)という表情でそうつぶやいた。青みかかった長い黒髪に、小顔で整った目鼻立ち。世間一般的には「美少女」と言われる部類に入るだろう。身長百六十五センチのスレンダーな体型。ネイビーの学校指定ブレザーに、赤と黒のチェックのスカートという一般的女子高生の服装なのだが、まるで有名雑誌のモデルのように目立っている。


「野毛の動物園にいるユニコーンって、ここの先輩か召喚したんだよね?」


 マナミの問いかけに、「まあ……そうらしいね」と興味なさげに応える。


「どうしよう、スゴイ魔獣を召喚しちゃったら――私、そのコに名前を付けちゃおうかな?」


 小柄なマナミは、目を輝かせながらそんなことを言う。(それって、取らぬタヌキの……)なんて言葉を思い浮かべてしまうメグミだった。


「あのね……初めての実習で召喚できるなんて、思わないほうがいいから。そもそも、召喚できる可能性は一パーセント以下らしいわよ」


 召喚魔法は最初に発見された魔法の一つ――といっても、この世界において魔法が発見されたのは十年ほど前のこと。召喚の成功例はまだ二桁に達していない。


「でも、ちょっと夢があるでしょ? ああ、どうしよう、なんか緊張してきちゃった」

 こんな実習で楽しそうにしている親友に、メグミは(ある意味、羨ましい……)なんて考えてしまう。


「ねえ、リナっちも緊張してる?」


 近くにいた赤茶毛のショートヘアにぱっつん前髪、赤い縁の眼鏡をかけた首藤すとうリナにマナミが声をかけると、「別に――」と素っ気ない返事が返ってきた。


「それでは、最初の組は馳川はせがわさん、西園寺さん、盛さん。お、お願いしますぅ」


 クラスメイト三人がメグミ達の前に歩み出て、魔法陣を中心に三方を囲んだ。

「そ、それじゃ、演習通りに詠唱から始めてください」


 舘林の合図にしたがって、三人が「告げる、汝の身を我が下に。我は汝を喚ぶ――」と声を合わせて唱え始めた。


(ああ、恥ずかしげもなく、よくやれるよなあ……)

 聞いているだけでもカラダのあちこちがこそばゆくなってくる。


 長い詠唱が終わると、魔法陣の中心が淡く輝き出すので、クラスメイトがざわついた。しかし、五秒ほどで光は消え、演習場は静寂を取り戻す。


「は、はい、そこまででいいですぅ。魔法の発動までは確認できました。これからも練習を続けて、三人の息がもっと合うようになれば、魔獣召喚も夢ではないですよぉ」


 舘林が「みなさん、拍手!」と声をかけると、全員が手を叩く。


「もうちょっとなのに、ざんねーん」


 巻き髪のバッチリメイク、いわゆるギャル風の馳川亜紀は、クラスメイトの列に戻りながら、みんなが聞こえるように声を出した。その表情は、「残念」というより「こんなものよ」という自信あふれたものだ。


「亜紀、やっぱスゴイ! アタシなんか足を引っ張らないように、詠唱するだけで精一杯だったもん」


 赤毛のポニーテール。亜紀の取り巻きである、西園寺琴子が彼女の自尊心をくすぐるような言い方をする。金髪のロングヘアで先端だけピンクに染めた盛サナエも「おつかれ」と声をかけた。


「琴子、サナエもサンキュー。さあ、みんなの応援をしなくちゃ」


 亜紀がそう言うと、メグミは(ああ、白々しいな……)と冷めた表情を浮かべてしまう。それを亜紀たちに見られちゃマズいと、顔を背けた。


「――はい、それでは次、藍川さん、大埜さん、首藤さんのチーム」

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