第10話 アトリの街へ
翌朝、村長たちに軽く挨拶を済ませて出発しようとすると、村の入り口に村民が集まっていた。
アーヤにとっては早朝でも、農業を営む彼らには問題なかったようで集まって見送ってくれた。
「カイトさん、色々教えてくれて助かったよ!」
「アーヤさん、魔道具も直してくれてありがとうね~」
「アーヤさんの喜びそうなもの集めとくから、また来てね!」
口々に声をかけてくれたみんなに手を振りつつ、温かい気持ちでカイトとアーヤはアトリへと向かう街道を急いだ。
トネリ村を出発して小一時間、アーヤは最初から冒険者スタイルで走りやすくしていたが、息も絶え絶えになりながら必死に足を動かしている。既に荷物はカイトに持ってもらっていたが、体力の無いアーヤの脳内は「死ぬ、苦しい」を繰り返していた。
「アーヤ、もう一息だ。あの丘を越えたら馬車が待っているから、頑張れ」
「はあ、はあっ……わ、わかっ……」
体力の無さが呪わしいと思いながらも、必死に走っているアーヤをカイトは引っ張ってくれるのをありがたく思いつつ、ただ足を動かすことに集中していた。
本当はカイトが背負うかと聞いてくれたんだけど、「恥ずかしいから、イヤ!」と拒否したのだから、頑張るしかない……。大人しく甘えるんだった。
ようやく丘を登りきると馬車が待機していて、馭者と言うよりも騎士に見える人が、カイトに手を振り、扉を開けて待ってくれる。
なんか、凄い貴族っぽい……。
「悪い、このまま出発してくれ。頼んでいたものは?」
「はっ!こちらの木箱に採集場所ごとに分けて瓶に入れています。採集場所はタグをつけていますのでご確認ください」
「分かった、移動中にこれは確認しよう。アーヤ、少し高いから気をつけて乗るぞ」
「う、うん……」
当たり前のように手を差し出されて乗った馬車は、クッションが利いていて派手ではないけど物の良さが分かる。私がちゃんと座ったのを確認してから出発してくれる感じからして、本当に教育が行き届いている感が凄い。
「アーヤ、馬車は大丈夫そうか?」
「うん、揺れが無さ過ぎて吃驚したけど、大丈夫だよ。その箱の中身、瘴気の調査しなきゃいけないんでしょ?」
「ああ、始めてもらえるか?」
「順番に渡してもらえる? 調査薬を入れて行きつつ、全部解析していくね」
カイトが瓶の蓋を開けて渡してくれたものに調査薬を数滴垂らし、色と眼での解析で瓶についているタグに瘴気のレベルを記入していく。どの水も瘴気の汚染は非常に低いけど、瘴気なしのものもなかったのを考えるとどこかに瘴気の吹き出し口ができたばかりだと思われる。
「良かった、深刻なものは無さそうね。でも瘴気の発生源が特定できないのが困ったところね……」
「何か方法はあるか?」
「この清華の種を水源近くに植えるくらいしか、今は手段がないかな。
この花は2日で芽が出て、5日目には花を咲かせるからその状態を見てもらえれば指標にはなると思うよ」
小さめの種の詰まった瓶をカイトに手渡すと、カイトは何か悩んでいるのか表情が冴えない。眉間のしわが深くて、私より幼いかと思っていたカイトがちょっと疲れているサラリーマンのように見える。
「あ、いや、わりぃ。この種の支払いとかどうするかと思ってな」
「あー……そうだね、
お父さんの怒っている時の圧のある笑顔を思い出すと胃がキリキリしてくる。お父さん、普段は優しくて温厚だけど、まあ人間怒ったら怖いのは正しいんだけどさ、詰めに詰めてくるから怖いのよ!!
「安心しろ、アーヤ」
「でも、これ安くはないよ?」
若干涙目で言うと、カイトはいつものように頭ぽんぽんして、「問題ない」って言ってくれるけどなにか厄介なものがあるのかもしれない。
「ねえ、カイト。浄化薬はこの瓶の数で大丈夫?」
「ああ、助かる」
「ちなみに、この後はどうなるの?」
「領主の屋敷に行って、転移陣を借りて一瞬で王都に着く、向こうに着いたらオレの後援を紹介するよ」
ちょっと困ったようにしているカイトがどうしても気になってしまう。ちょっとソワソワしていると、カイトが崩れ落ちる。
「はあああああああああああ……」
「ど、どうしたの?」
「いや、アーヤ、悪い。オレの中で中々割り切れなくてな、ずっとどうするか悩んでいたんだ。
まだ領主の屋敷まで時間がある。少し話を聞いてくれるか?」
「うん、もちろんだよ。カイトは信頼できるって思っているから」
「ありがとな」
頭をまたぽんぽんとされ、そんな幼く見えるのか手触りいいのだろうか?と少し思うが、ぽつりぽつりと話しだしてくれたカイトの話に集中する。
カイトは孤児で、自立しやすい仕事として幼い頃から手伝いレベルのクエストを冒険者ギルドで受けていた。掃除とか薬草収穫とか、迷いネコ探しとか、カイト曰く「簡単なものばかり」だそうだ。
15歳で大人になってから、カイトは同じ孤児院出身の先輩たちに色々教わりながら得物を選んだり、身体強化も何となくで教わって使えるようになった。大体の事が自分でできるようになってから、カイトはソロで行動するために生まれ育った街から出たらしい。
「寂しくはなかったの?」
「いや? 一人になって、せいせいしたー! って気持ちの方が強かったぜ」
「そ、そっか……」
面倒見の良いカイトからはいまいち想像できない。でも嫌なことが続いて、故郷を捨てたと言い切る表情に曇りはなかった。早々に頭角を現したカイトに嫉妬が集まったり、とかがあったのかもしれないな、と深くは聞かない。
ソロで行動する中で、後援となってくれた人と出会って、偶然助けちゃったら気に入られた、とげんなりした表情で言っているのを見るとカイトが望んで関わったのでは無さそうで、だから気が重そうなのかも? とこれから会う貴族の方がちょっと不安。
「大丈夫だよ、単に初見のイメージよりも偉い奴だったのと、色々と便利に使われてな……」
「悪い人ではないのね?」
「ああ。色々面倒な奴だけど、悪い奴じゃねえ。ちなみにアーヤの眼は人の立場とか本名は視れるのか?」
「名前は見えるかも? 意識して見たことがないから分からないけど。立場とかは分からないし、何考えてるとかも分からない。
ただ、悪意はなんとなくだけど分かるかな。具体的なものは何も見えないよ」
「それは良かった」
まあ、人の状態見えるんだから気になるよね、と思いつつカイトに気味悪がられたらちょっと悲しいな。
「アーヤの眼に、オレはどう映ってる?」
「えっ? ……中性的な綺麗な顔をしている少年と青年の間くらいの男性?」
「髪と目の色は?」
「黒髪に薄い青?ブルーグレーっぽい色の目かな」
うん、意外とたれ目で可愛い顔しているんだよね。そんなに筋肉質な感じもあまりないし年下かと思ったんだけど、年齢分かんなくなっちゃったなぁ。
「やっぱりアーヤは特別だな」
「ええ? 突然なに?」
「まず、今のオレの外見は普通厳ついオッサンに見えるんだ」
「……え? ごめん、意味が……」
「オレは色々過去にあったのと、任務中は外見を覚えられるとまずいから、外見を変えられる幻惑系の魔道具を常に使っている。
だからトネリ村でもあんまり侮られなかっただろう?」
「あれはカイトのランクのお陰じゃなかったの?」
そう答えつつも、こんな可愛い系青年? 少年? がランクAの冒険者って言っても確かに一瞬疑うかも。
「なるほどね~。こんな綺麗な顔なのに、って逆か~目立っちゃうよね」
「それもあるな。ちなみに、オレはこの外見で28歳だ」
「はっ? 私の目に見えている、綺麗な顔はどうみても15~17歳くらいの男性だよね?」
「そうだな」
ちょっと楽しそうに、にやりと笑っているカイトにアーヤは「うそぉおおおおお」と叫ぶのだった。
年齢不詳な人はいつの世の中もいっぱいいるけど、大分詐欺では?
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