DDD ―ダンジョン ダイブ ドラゴンガール―

覇気草

序章

第1話 俺、ドラゴン娘になる


 この世界はつまらない。


 アニメや漫画、ライトノベルみたいな魔法や異能やスキルのような力が存在しない。物理科学が発展しただけの世界だ。

 だからなんというか……刺激が足りない。生きてると実感できる戦いがない。

 平和な日本でそんなことを言うのは贅沢の極みなのは分かってる。けれどこの胸の内にくすぶっている闘争本能はスポーツや武道程度じゃ解消できない。戦地に行けばいいと思うかもしれないが、そうじゃない。俺は剣とか槍を持って死闘がしたいんだ。

 とまぁ、そうは思っても世界が変わることなんてあるわけがない。成人してからは目の前の仕事をひたすらにこなし、気を紛らわせるように色々な資格を取得した。三十代も半ばに差し掛かった今では、バスや大型トラック、多数の作業用車両を扱えるベテランドライバーだ。


 今日も今日とて、好きなBGMを鳴らしサングラスを掛けてトラックを運転する。


「――ん? アレは……隕石?」


 高速道路を走行中、空から光り輝くなにかが落ちてきているのが見えた。


「うわっ、眩し!」


 それは途中で強く光った。サングラス越しでも目が眩むほどで、細めた目の先で普通自動車が急ブレーキを掛けたのが見えた。


「ちょっ!!」


 俺も即座に急ブレーキを掛けるが、間に合いそうにない。けたたましい音を発しながらトラックはアスファルトの上を滑って進み、前方との距離が縮まっていく。


 ぶつかる――!


 直前になって目を瞑れば、すぐに凄まじい衝撃が起こってエアバッグが作動し、シートベルトが機能してなんとか吹っ飛ばされずに済んだ。

 が、止まった直後にまた衝撃が起こった。感覚的に、後ろから追突されたっぽい。


「あー、くそっ」


 車は間違いなく廃車、前の運転手は最悪死んでるとして、救助しないとな。後ろは知らんが、警察と救急車の要請もしないと……。


 シートベルトを外してエアバッグを退かしながらドアを開けてトラックから降りる。

 前を見て足が止まる。


「……マジかぁ」


 数十メートルほど先には五メートルほどの巨大な岩の塊が高速道路を塞いでいて、複数の車が止まりきれずに事故って幾つかが原形を留めていない。無事な運転手が何人か降りてきているが、俺と同様に動揺している。


「とりあえず、救助活動でもしと……こ?」


 岩に開いている大きな穴から、なにかが次々と出てきている。緑の人型だ。子供サイズで、腰蓑こしみの一枚の全裸、地獄の餓鬼みたいなお腹だけ膨れた歪な体型。顔も醜い。手には石斧や石器ナイフが握られている。


「ゴブリン?」


 アニメや漫画、ゲームなんかでド定番のモンスターだ。少し遠いが見間違えるはずがない。

 奴らは目の前にいる人間たちを襲い始めた。次々と殴られ刺され、女は犯され、子供は食べられていく。


「なんで……存在するんだ?」


 答える相手はいない。前にいる生き残った人々が逃げ出し、横を通り過ぎる。それを追って来たゴブリンの一体と目が合い、狙いが俺へ切り替わる。


「ははっ、来いよ」


 危機的状況なのは理解しているがどうしてもにやけてしまう。こんな千載一遇のチャンスは二度とない。例えここで死ぬことになっても戦うことができるのだ。

 ゴブリンが手斧を構えて飛び掛かって来た。それを避けながら顔面をぶん殴る。


 ――手応えがない。


 ゴブリンは空中でバランスを崩して倒れたが傷一つ付いていない。むしろアスファルトに後頭部を打ち付けた方を痛がっている。追撃で顔を踏みつける。


 やっぱり、ダメだ。


 足裏から伝わる感覚がぐにゅっとして、ゴブリンに届いていない。


「やべっ」


 前の方にいた大量のゴブリンがすぐ近くまで来たので、全力で逃げる。殺せないのなら戦う意味がないし、せっかくの闘争も冷めてしまった。




 ――――ドクン!




「うっ」


 なんだ……? 体が変だ。


 急な動悸が起こって体が言うことを聞かず、よろめき、膝を着く。呼吸は乱れめまいが起こり、立っていられない。体の中から沸々と熱が生み出され、内臓を手で掻き混ぜられるような不快な感覚が襲う。


 なぜ、こんな時に?


「ぐぅっあああああああああ!」


 全身がぐちゅぐちゅバキバキと、肉と骨が強引に作り替えられていく。気絶しないのが不思議なくらいの痛みが続き、十秒くらいで収まった。


 ……なにが起こったんだ?

 なんか体が軽くなったし、頭もスッキリしてる。

 それにゴブリンがなんか……俺を恐れて立ち止まってる?

 かがみ鏡……――えっ??


 近くの車のサイドミラーを覗き込んだら、とんでもない美少女がいた。髪は赤く角があり、背中には毛の生えていないカッコイイ翼が生え、尾てい骨付近からはトカゲのような尻尾が生えている。

 頭に浮かんだのは『レッサードラゴン』という言葉。


「な……なんじゃこりゃあ!?」


 鏡に映る美少女が、驚愕した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る