第35話 都大会決勝 桜見VS柳石2

 桜見は開始早々いきなりピンチになりかけるも、与一が阻止してみせた。


「相手速いよー! チェック早めに行ってー!」


 柳石のプレースピードが速いと見て、輝羅から何時もより素早く行こうと声を上げていく。


 東王との試合も相手の動きが速く感じ、今日の柳石も匹敵する程だ。


「っ!」


「うぉっ!?」


 影二が体を寄せて自由にボールを相手に持たせない。

 彼らも地区大会や都大会で数々の試合をこなし、東王を倒す程までレベルアップしている。


 桜見のチーム力は間違いなく増してるだろう。


「怖いのは10番と7番だよー! そこは積極的に厳しく行こー!」


 輝羅と同じく与一もチームへ声を掛け続け、自身は星夜へと張り付く。

 自由にはさせないと密着マークだ。


「てぇ!」


 楽斗が懸命の守備を見せると、ボールを持つ森本がキープしきれず弾いてしまう。

 セカンドとなって転がる球を影二が取れば桜見の攻撃が始まる。


「9番10番マーク!!」


 速攻をかけられる前に小島の大声がフィールドに響くと、桜見の攻撃を担う竜斗、楽斗に柳石の選手達が早々にマークしていた。


「あのキーパー声大きい!?」


「声はGKにとって大きな武器ですから。指示とか聞こえやすくて皆スムーズに次の動きへ繋げられると思います」


 ベンチから遊子は小島の大声に驚き、横の神奈は特に驚く事もなく立派な長所だと言えば、遊子とは正反対でリアクションが無いまま試合を静観。



「ヤバ!」


「ちぃっ!」


 それぞれマークされた竜斗、楽斗の2人は動き回って振り切ろうとする。


「(なめられたもんだな。攻撃をあの2人だけでやってると思ってんのか!?)」


 2人へのマークが厳しい中で右サイドの霧林が上がっていく。

 彼に対してはマークが手薄となっている。


「(右が薄い……!)」


 影二もサイドの守備が甘めなのに気づくと、右を走る霧林に左足で出せばパスが通った。


「行けるよキリー! そのまま上がっちゃってー!」


 後方から与一の声を背に受けながら、霧林はドリブルで一直線に突き進む。


「丸山チャレンジ! 大塚は中央!」


 再びフィールドに響く小島の大声。

 柳石の左を守る丸山が霧林へ寄せて行き、大塚が中央への折り返しを警戒。

 ゴール前には厳しいマークを受けながらも、竜斗が走ってきている。


「(竜斗なら!!)」


 丸山に寄せられる前に霧林の右足からアーリークロスが蹴られた。


 ボールは柳石ゴール前の上空を舞い、そこに竜斗が跳躍。

 マークをするDFもヘディングを阻止しようと同時にジャンプ。


「らぁっ!」


 空中戦で競り勝ち、竜斗が頭で合わせたボールはゴール右へ飛ぶ。


「おっし!」


 だが、真正面で小島が竜斗のヘディングを受け止め、両掌の中に収めて桜見の攻撃を断ち切る。



「(悪くないね相手GK……声大きくて頼もしい所あるし、東京No.1は伊達じゃ無さそうか)」


 小島のプレーを最後尾から見ていた同じGKの輝羅。


 中学のGKとしては長身な方で、声の大きさによるコーチングも良い。

 さらにキャッチングを見てみれば安定していて、彼を中心とした柳石ゴールから1点を取るのは難易度が高そうだ。


「右デコイだから気にすんなー! 真ん中注意!」


 大きな声が武器の小島に少し対抗か、輝羅も気持ち少し声量を高めるつもりでコーチングしていく。



「フンッ!」


「っ!」


 再び高く柳石ゴール前に上がったボール、今度はヘディングを許す事なく竜斗の前で小島が飛び出してキャッチ。

 いくら高さに自信がある竜斗とはいえ、長身の上に手の使えるGK相手では厳しい。


 東京No.1の守護神が桜見の攻撃陣に大きく立ち塞がる。


「カウンター!!」


 キャッチした球をすぐに小島は勢い良く放り投げると、グングンとボールが伸びて向かう先は右サイドの影丸。


 今度はダイレクトパスを出さず、右足の綺麗なトラップを見せた後に流れるような動きで反転した。


「わっ!?」


 室岡が止めに動いた時、またしても彼の右を影丸のパスが抜ける。

 よく見れば影丸は予備動作がほとんど無い、ノーモーションでのパスを出したのだ。


 右から出されたパスは今回、星夜を通り越して2トップの畑野へ迫る。

 そこに大橋が飛び込み、頭で跳ね返していく。


 ゴール前に零れた球へ佐藤が追いついて右足のシュートを放つも、コースは真正面に飛んで輝羅は両掌でキャッチ。


 星夜が攻撃に絡まずとも自分達で良い攻撃が出来るんだぞと、そうアピールするような柳石の攻めだった。


「(たいしたシュートじゃないけどね)」


 攻撃は出来ていても輝羅にとっては甘く、防ぐには容易い。

 相手GK小島に負けないセーブを輝羅も見せる。


「全然負けてないよー! もっと強気に行こうー!」


 味方を鼓舞しながら右手のスローイングで影二へ届ければ、そこから楽斗へ素早く繋げて桜見が速攻に出る。


 すると桜見ゴール前から静観していた星夜が動き出していた。


「! 楽斗、後ろから来てるー!」


 ボールを持つ楽斗へ一直線に走っていると気づき、与一はコーチングで楽斗に迫る危険を後方から叫ぶ。


「てぇっ!?」


 星夜が身を低くしたかと思えばスライディングで滑り込み、ボールを捉えると楽斗は転倒して球が転がっていく。


「ファール!」


 霧林がファールをアピールするも主審は取らず、プレー続行。

 危険なスライディングだがボールに行ってると判断され、ファールではないとジャッジを下したらしい。


 その間にセカンドを大塚がキープ。


 素早く立ち上がって走る星夜にパスが出れば、ボールをトラップして中央からドリブルで進む。


「突っ込んで来るよー! 寄せてー!」


 与一が単独で突っ込んで来ると味方へ指示を送っていた。


 宮村が止めに行くも星夜は左右のフェイントで翻弄。

 瞬きする暇も与えないスピードで動かれ、あっという間に宮村は抜かれてしまう。


 そこに、もう1人のボランチである影二が忍び寄っていく。


「わっ……!?」


 彼が来ている事を察知していたのか、ギアを上げた縦への突破で星夜は影二をも抜き去り、1人でダブルボランチの包囲網を掻い潜っていた。


「(此処までだねー!)」


 その影二を突破した所を最初から狙っていた与一。


 縦に抜けた星夜の足元から若干離れたボールめがけて、スライディングで突っ込む。


「!?」


 だが、神童と呼ばれた少年は与一を驚愕させていた。


 若干離れたはずのボールが意思を持って、引き戻されるように星夜の元へ転がれば、与一のスライディングで伸ばした右足は捉えられない。


 そこから軽く左足で蹴り出すと、星夜は右足で地面を強く蹴って跳躍。

 ボールと共に与一を飛び越え、空中で左足が球を捉えてシュートにまで持っていく。


「おおお!?」


 見ている観客達が驚きの声を上げる。


 星夜の相手を躱した直後に繰り出されたジャンピングボレー。


 矢のようなシュートがミドルレンジから飛ばされ、桜見ゴールの左上隅へ迫っていた。


「っ!」


 GKにとって最も取り難いコースへ向かうシュート。


 それでも輝羅は左足を強く蹴って跳躍すれば、右掌にボールを当てて弾く。

 桜見ゴールマウスから逸れた球はラインを割って、主審が柳石の左からのCKを指示。


「あ、危ねぇ……! 今の決まってたら絶対スーパーゴールだろ……!?」


 前線から星夜の強烈な個人技を目の当たりにして、竜斗は肝を冷やされる。

 ダブルボランチだけでなく与一まで突破してのシュート。


 今のプレーで神童の力が伝わるには充分だった。



「これで1点かと思ったけど、やはり君は並外れたGKのようだね。あれに触れられるとは思ってなかったよ」


「お褒めの言葉をどーも。こっちも弟まで躱しての3人抜きから、華麗なシュートにまで持ってく君に驚いてるけどねー」


 柳石のセットプレーでゴールへ近づいた時、星夜と輝羅が言葉を交わして互いに笑みを見せる。


「(スイッチが入ってるね……この前会った時の冷えた心が今は僕達を倒そうと熱くなってる)」


 輝羅が星夜の心を覗けば、彼は自分達が何者かを知った上で闘志を高め、倒そうと本気で向かって来ていた。


「(まぁ、それは僕達の方も同じみたいだけどね)」


 視線を星夜から外すと輝羅の目は与一を捉える。


 そこには何時もの笑みが一切無くて、彼の雰囲気は殺気立っていた。

 今の彼がどういう状態なのか双子として分かる。


 与一が相手を狩るべき敵だと認識し、100%本気になったのだと──。


 ────────

 神奈「という訳で与一兄さんは今回出られる雰囲気じゃないです」


 輝羅「此処は兄妹2人で仲良くやっていこうか妹よ♪」


 神奈「輝羅兄さん、仕事」


 輝羅「はいはいー、次回も続く桜見VS柳石の試合! 本気になった与一と神童の古神の対決あるよー!」

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