第31話 都大会準決勝 桜見VS東王4

 桜見、東王による都大会準決勝の試合は前半0ー0。


 両チームに点が入らないまま、ハーフタイムを迎えていた。


「前半、相手の左サイド林野に相当突破されてました」


「確かに結構やられてたな……あいつ速くて上手いわ」


「……返す言葉も無い……」


 タブレットを操作する神奈から、前半にサイドから結構やられた事を指摘されれば、振り回された霧林と影二は休みながらも事実を受け入れる。


「エースのシュートは最低限に押さえてるけど、林野とか三山に結構攻め込まれてるから状況としては良くねぇな」


 タオルを肩にかけ、竜斗は要注意の2人をどうにかしなければと皆に話す。


「とりあえずヤミーはサイド相性悪そうだから、中央に居てもらった方が良いねー。攻撃に出る三山辺りを抑えてもらうとか」


「確かに……彼、僕の動き結構読んでる感じしたし……苦手かも」


 影二からすれば光流に対して苦手意識を持ち、輝羅も心で察知したので中央に居てもらう方が良いと意見。


「相手は相当前に来てるからカウンター決めたい所だよなぁ。向こうのDFやGKも堅いけど」


「やっぱり東京No.1ですから、他のポジションもレベル高いですよね……」


 どうにか1点取れないかと楽斗や室岡は休みながらも、どう点を取ろうかとハーフタイムの間ずっと考え続ける。



「もう流れ良くないからー、良いタイミングでワカバ出しちゃおうよー」


「選手交代で流れを変えるか……うん、アリだなそれ」


 与一はドリンクを飲み干せば、選手交代しようと提案。

 それを聞くと竜斗は腕を組んで考え込み、流れを変えるには良い手かもしれない。


「若葉は?」


「交代に備えて他の選手とアップしています」


 竜斗に視線を向けられた神奈は若葉の現状をすぐに伝える。


 前半の終了間際ぐらいから他のベンチメンバーと共に、何時でも出られるように軽く走りに向かっていた。


「3回戦で若葉は左サイドで良い働きをしたし、あの感じで今回もプレーが出来れば流れを変える要素になるかもしれない」


「雨の試合で見せてくれたスーパープレーな。東王の守備陣を相手にどうなるかは分かんないけど、出してみようぜ?」


 相手は東王で東京トップのチーム。

 3回戦の時のように上手く行くかは未知だが、竜斗も楽斗も流れを変えるには良い交代になると同じ考えを持つ。


 話してる間にハーフタイムが終わりを迎える、選手達はフィールドへ戻って行った。



「前半結構動いたが、スタミナは大丈夫か光流?」


「ああ、まだまだ動けるよ。後半に後輩へのアシストしなきゃいけないから──」


 剛源と話す中で光流が後輩の秋城へ視線を向けると、彼は1人静かに集中していた。


「康太の奴、前半全く仕事させてくれなかった悔しさか。やっと本気になりやがった」


「じゃあ後半は彼に頼って良いかな。ああなった康太って怖いからね」


 剛源、光流の2人は知っている。


 静かな時の秋城は極限まで集中していて、ゾーンに近い状態だという事を。



 後半戦が開始されると桜見が攻撃に出て来るが、剛源によって楽斗は変わらず封じられてしまう。


「(ああもう! 少しはフリーにさせてくれよ、しつこい〜!)」


 何処までも守備のときに彼のマークが付き纏うのに対して、楽斗は心の中で本音を叫ぶ。


 高さは勿論、スピードでも剛源が上回り、走り回ってマークを引き剥がそうとするが叶わず。


 桜見の指令塔を東王のエースキラーは決して逃さない。



「っ!?」


 影二から右サイドの霧林に繋げようとするが、影二のパスを読んでいた光流のインターセプトに阻まれてしまう。


 直後に光流はドリブルではなく取った位置から、左足の速いパスを送っていた。


「うおっ!?」


 地を這うボールを右足でトラップした秋城が、背後からマークする大橋を左回りの鮮やかなターンで躱し、桜見ゴールを見据えながらドリブルで進む。


『(与一、相手のエースがマジモードみたいだよ!)』


『(分かってるって! 何かスイッチ入ってるっぽいし!)』


 テレパシーで輝羅から気をつけろと言われると、与一が相手エースとゴール前で対峙する。


 秋城の方は完全な集中モードに入っており、前半よりもキレのある動きで与一を抜き去りに行く。


 右へ行くと見せかけ、左への切り返しと急な方向転換を見せる秋城だが、与一は彼の動きに惑わされず抜かせない。


「(本気モードの康太が抜けない!?)」


 何時もは相手をドリブルで抜き去っている優秀な後輩だが、目の前の小さなDFを抜けない現状に剛源が驚いていた。


 それ程までに凄いDFなのかと。



「(スピードもテクニックもあるけど──僕には物足りないね!)」


「っ!?」


 突破出来ない事に焦ったか、秋城が正面から強引に抜き去ろうとした時、与一は彼の足元が甘くなった隙を突いていた。


 ボールを自分の元へ足で引き寄せてのカット。

 秋城から奪い取り、与一は彼の横をドリブルで通過していく。

 一対一のデュエルを制し、攻撃へと切り替われば前へと積極的に上がる。


「寄せろー!」


 フィールドで響く剛源のコーチング。

 それと共に和田が近くに居たので与一へ迫っていた。


「(速い!?)」


 瞬く間に和田は与一の突破を許し、棒立ちとなる。

 まるで光流のスピードを思わせるようなドリブルだ。


「(あいつドリブルも得意なのか!? けどパスを何処かで出すはず……!)」


 与一のドリブルに驚きながらも、剛源は楽斗のマークを外さない。

 パスを何処かで出すものかと思われたが、与一はボールを持ち続けてセンターサークルを超えて来る。


「(調子乗るなよチビめ!)」


 このまま持ち込ませるかと、荒木が与一に対して突進。


 それをボールと共に華麗なターンで回り、猛牛を躱すマタドールを思わせる動きで突破していった。


「(こいつ、まさか1人で!?)」


 剛源はハッと気づく。


 与一がパスを出す気が無くて単独で持ち込むのかと。

 もう東王ゴール前には近づいており、シュートが飛んで来てもおかしくない。


 難しい状況に追い込まれると剛源は与一を止めに、楽斗のマークを外して走る。


「(はい、堪えきれなくなったっと──!)」


 山が動き出した瞬間、与一はフリーとなった楽斗を狙い、右足でパスを出した。


 向かって行った剛源の左頬を掠めながらボールが通過すると、フリーとなった楽斗にパスが届く。


「(やっと自由に動ける!)」


 厄介な剛源のマークが外れた事で、ついに自由となった楽斗は前を向くと、すかさず竜斗を狙って右足のパスを出す。


 これが竜斗に通り、目の前には東王の長身DFが1人いる。


 対峙する相手がボールを奪おうと足を出した瞬間、竜斗は右足の球を左へ滑らせるように移動させ、左足で軽く前へ蹴ると共に自身も前進。


 サッカーのフェイントの一つで『ダブルタッチ』と呼ばれる技だ。


 一瞬の出来事で相手を抜き去った竜斗の前にはGKのみで、迷う事なく右足を振り抜いてのシュート。


 その瞬間、東京No.1チームのゴールネットが大きく揺れ動く。


「っしゃああ! 楽斗ナイスー!」


「今のは与一のドリブルだってー!」


 東王に押されていた展開から桜見の先制点。

 ゴールを決めた竜斗が楽斗の元へ駆け寄ると、その後に与一の元へ向かう。


「お前そんなドリブル得意なのは聞いてねぇよ!」


「言ってなかったからねー♪」


 喜びの輪に加わりながら、実はドリブルが得意だった事を与一は明るく笑いながら話す。


 東京王者相手に1点が決まり、試合はようやく動き出す──。


 ────────

 与一「僕の力を見せつけて来ましたー♪」


 輝羅「ドリブルはイタリアに居た頃、散々練習したもんねー」


 与一「そうだねー、幼い頃の経験値って大きなアドになるし♪」


 輝羅「次回も東王戦、続くよー!」

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