第20話 息抜きでトラブル遭遇!?

「でぇっ!」


 青い機械に設置されたボールが放たれると、ゴール前に居る大勢の選手へ高速で飛んできた。


 竜斗が右足で当てる事には成功するが、球はゴールマウスから外れてしまう。

 シュートの勢いも足りなくて全然タイミングは合っていない。


「短期間で当てる所までは行ったねー、流石キャプテン♪」


「いや、合わせんの難しいって滅茶苦茶! こんな速い球って来んのか……!?」


 ボールを足に当てる所まで行った竜斗に対して、輝羅は笑顔で拍手を送っていた。

 その竜斗は、こんな速い球を相手が放り込んで来るのかと疑問を持つが。


「スーパー中学生なサイドプレーヤー辺りが蹴るかもしれないし、そうじゃなくても近い速さのボールに対する対応とか良くなるでしょ♪」


 そこに与一も加われば、もしもの相手に備えての練習になると笑顔で言い切る。


「……とりあえず続けてやってみるしかねぇか。継続は力なりって言うからな」


「イタリアのローマは一日にして成らず、みたいなもんだねー」


「はい、もう一本行くよ皆ー!」


 竜斗が前を向けば与一が楽しげな笑みを浮かべ、輝羅は皆へ練習の続行を知らせる。


 新たなマシントレーニングが導入されてから、自然と桜見の練習の熱は増していた──。



「明日ってオフだよねー?」


「そうだよ? 貴重な休みだから休んでおかないとなぁ」


 今日の練習が終わって部室で着替えていた時、与一から明日の予定について問われれば、そうだと楽斗が着替えながら答える。


「じゃあ皆で遊びに行かないー? 輝羅や神奈と3人も良いけど、皆も入れて遊ぶのも楽しそうだし♪」


「明日に!? いやぁ、俺は妹の買い物に付き合ったりするから予定が空いてないんだよなぁ〜」


 与一からの誘いに楽斗は家族の用事があるので断った。

 家では結構、妹大好きな兄貴らしい。


「え〜、ヤミーは明日の予定って空いてるー?」


「僕は……明日、大事なコンサート行くから無理……!」


 なんのコンサートかは知らないが影二も明日の予定が埋まって、与一からの誘いを楽斗と同じく断る。

 普段陰気な雰囲気漂う影二が、そのコンサートをテンション上げて楽しむとしたら、かなりレアな姿かもしれない。


「じゃあ、もう困った時のキャプテン〜!」


「遊びって俺は──」


 自分を遊びに誘おうとしている与一に、竜斗は自主練をして過ごす為に断る事を考えた。


「(いや、こいつとか休みの日に実は何かやって、それが結果として秘密の練習に繋がっているかもしれない)」


 与一と輝羅がオフの日を一体どう過ごしているのか、竜斗としては興味が沸いてきている。

 意外な所で彼らの実力に繋がる物が見つかるかもしれないと。


「──行こう、俺で良いなら付き合うぞ」


 竜斗は与一達と明日の休みに遊ぶ約束をする。


 ☆


「(早く来たかこれ)」


 スマホで時間を確認する竜斗が今いる場所は、人で賑わう桜見の駅前だ。

 何時ものジャージやユニフォームではなく、今日の竜斗は黒い半袖のシャツに同色の上着を合わせてのジーンズ。


 中学生では高めな身長に加えて顔も整ってるので、モデルに見えてもおかしくなかった。


「竜斗ー、早いなぁ〜」


「遅れてすみませんキャプテン」


「おお〜、プライベートの竜斗って格好良い服だねー」


 駅前に現れた神明寺兄妹、彼らも普段の学校生活とは違う装いだ。


 与一は半袖の青いパーカーと黒いハーフパンツ。


 輝羅は黒い半袖のシャツに白い上着とジーンズ。


 神奈は半袖の桃色のシャツと白いロングスカート。


 3兄妹それぞれ私服を着て、竜斗から見れば新鮮な姿に映る。


「集まったのは良いけど、何処に行くんだよ?」


 行き先については決まっていないまま、竜斗は兄妹達に任せようと聞く。


「んん〜、決まってないから〜……竜斗が僕達に桜見のオススメスポットを教えて♪」


「え、俺が!?」


 いきなり与一から桜見のスポットを教えてくれと無茶振りが飛んで来て、竜斗は腕を組んで考える。


「……とりあえず桜見ならではっていう場所は一個あるな」


「お、じゃあ案内よろしくキャプテン♪」


「よろしくお願いします」


 竜斗に案内を陽気に促す輝羅と礼儀正しく頭を下げる神奈。

 同じ兄妹でも全然違うなと思いながら、竜斗は先頭を歩いて案内する。


 ☆


 駅前の大きな建物が並ぶ場所から移動して進むと、前方の景色が緑豊かな物へ変わっていく。


 やがて一行の前に現れたのは『桜見運動公園』と呼ばれる巨大公園。

 親子連れが公園の遊具で遊んだり、ランニングで走る人々が多く見られた。


「ふわぁ〜、こんな大きな公園が桜見にあったんだね〜」


「よく向こうで行っていたセンピオーネ公園を思いだすよー」


 桜見の大きな公園を前に与一は周囲を見回し、輝羅の方はイタリアで暮らしていた時に行った公園を思い出す。


「この公園には俺の所属していたサッカークラブが、よく練習で来てたんだよな」


「クラブの人達も通う程に練習環境が充実してるんですね」


「ああ、しばらく来てなかったから懐かしいもんだ……」


 公園について神奈へ説明していると、竜斗は公園に来たのが久々だと思い出して懐かしい気分に浸る。


「これ良いスポット教えてくれたね輝羅ー♪」


「ミスったなぁ、ボール持ってくれば良かったかも──」


 公園の景色を楽しむ与一の横で、輝羅がボールを持ってこなかった事を後悔している時だった。


「誰かぁぁ────そいつ捕まえてぇぇ!!」


「!?」


 穏やかだった公園内が一変、女性の叫び声が木霊すると皆が注目する。


 叫ぶ女性の遥か前方を走る黒いフードをかぶった男が、速いスピードでバッグを抱えて疾走。

 どうやら彼が女性から隙を見て盗んだらしい。


「やろっ!」


 急な出来事に皆が驚いて動けない中、竜斗がサッカーで鍛えた足を活かして追いかける。

 しかし男との距離は結構開いていた。


 このままでは逃げられる。



「折角のオフを──汚すなよ!」


 同じ頃、輝羅は右足で男に向けて缶をシュートするつもりで蹴る。


 ギュンッ ガァンッ


「がはぁっ!?」


 弾丸のような速さで迫ると、盗人の脇腹に未開封ジュースの缶が命中。

 予期せぬ一撃に男が転倒すると、バッグが手放されて宙を舞う。


「あぶね!」


 放られたバッグは追っていた竜斗が抱え込むようにキャッチ。


「GKの僕が嫉妬するぐらいナイスキャッチだよ竜斗ー♪」


「警察に通報しないと……」


 女性のバッグを守った竜斗に輝羅が笑顔で褒め、神奈は素早くスマホで通報をしようとする。


「お嬢さん、それ僕がやっといたからね?」


「え……」


 通報しようとしていた神奈の前に、白いメッシュ入りが目立つ短髪黒髪の男が自分のスマホを見せていた。


「ああ〜、僕のジュースが〜」


 他に犠牲になった物と言えば与一が買って飲むはずだった、150円のジュースぐらいか。



 すぐに警察が駆けつけると盗みを働いた男は連行。

 バッグが戻って来た女性は子連れで、竜斗や輝羅達に心から感謝していた。


「とんだ公園デビューになっちまったな……」


「日本の日常も色々あるもんだねー」


 女性と子供達の姿を見送った後、先程の出来事を振り返っていた時──。


「やあ、良いのを見せてもらったよヒーロー諸君」


 そこには神奈より先に通報を済ませた人物の姿が、4人の前に現れる。


「あ、先程の……」


 竜斗ぐらいに背の高い黒ジャージを着る少年から、爽やかな雰囲気が漂う。

 それが通報した人だと、すぐ神奈には分かった。


「(あの顔、ひょっとして……!?)」


 現れた少年の顔を見ると、竜斗には誰なのか心当たりがある。


「竜斗、誰なのか知ってるのー?」


「あのイケメンジャージな人は誰ー?」


 竜斗の心を読んだ双子が揃って、相手が誰なのかを問い掛けていた。



「──古神星夜(こがみ せいや)、サッカーの天才少年って騒がれてた奴だよ」



 ────────

 与一「僕のジュース〜」


 輝羅「後で1本奢るから、それで終わろ?」


 与一「ちゃんと100%のオレンジジュースねー」


 輝羅「という訳で次回は突然出て来た天才な人とご飯に行きますー♪」


 竜斗「いや、何で急に飯!?」

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