第19話 サッカー部に新兵器導入!?

「良いシュートぉ!」


 バシィッ


 桜見のサッカーグラウンドにて、輝羅は相手の放って来たシュートをキャッチすると腕の中に納めてキープ。


「良いシュートっつっといて、あっさり取るから説得力が無いっての」


 今シュートを撃ったのは影二で輝羅はそれを褒めていたが、あっさり取った事で霧林から良かったのか分からないと、ブーイングが飛ぶ。


「いや……でも前より強いシュートが出来てるなって、手応えはあるよ……」


「それってヤミーの隠された力が覚醒ってやつ? 何か格好良いな!」


「か、覚醒……してるのかな……?」


 陽気に肩を組んで来て覚醒してると楽斗に言われ、影二としては分からない所だった。



「おい輝羅、与一はどうしたんだ?」


 竜斗が辺りを見回すと何時もの明るい小さなDFの姿が無く、彼と一緒にいる輝羅なら何か知っていると思い尋ねる。


「あー、サッカー部の届け物を今取りに行ってるから。そろそろ戻るんじゃないー?」


「うちの部に? 遊子先生が何か注文したか……?」


 サッカー部への届け物と聞いて竜斗は考えるが、心当たりは無い。

 部の関連で注文をした覚えは無く、自分の知らない相手に遊子が注文でもしたのかと、この時は思った。



「はーい、こっちこっちー。オーラーイ、オーラーイ」


 そこへ何かを誘導するような声が聞こえてくれば、声の主が与一と竜斗が気づく。


「なんだ……!?」


 声のした方へ振り向くと竜斗の顔は、すぐに驚きへと染まっていた。

 目の前には与一と青いマシンのような物を2人がかりで運ぶ、黒服の大人の姿。


 どう見ても見知らぬ部外者を与一が誘導しているみたいだ。


「え、何あれ?」


「ていうか誰あの人達?」


「警備員呼んだ方が良い……!?」


 日常の光景とは異なる物を見た部員達、当然の如く皆がそこに注目し、ざわめきが起こる。


「与一! これは一体何の騒ぎだよ!?」


 今の状況を彼に説明してもらわなければと、竜斗は厳しい表情で与一に詰め寄っていく。


「何って、見ての通りサッカー部に新しい練習道具が届いたから、それを置く手伝い♪」


「いや、だから……お前な……!」


 何時もと変わらぬ明るい笑みで与一は状況を説明。

 これに竜斗はどう言おうかと、右手で自分の頭を掻いていた。



「何だよ与一、お前何も伝えてなかったのか?」


 与一の隣へ歩いて来る一人の人物。

 短髪の紫髪で左目が前髪で隠れている男は、青いスーツを着ていて小柄。

 与一や輝羅と大きな差が無さそうに見える。


「ゴメン摩央おじさんー。サプライズで驚かそうと思って♪」


「おじさん言うな、摩央さんって何時も言ってるだろーが」


 軽く舌を出して謝る与一にスーツの男は軽く溜息をついていた。


「ええと、すみません。あなた方は……?」


 遠巻きに部員達が見守りながらも、竜斗は代表して彼に話しかける。


「ああ、突然失礼。こちらをどうぞ」


 スーツの男は内ポケットから流れる動作で、名刺を竜斗に差し出す。

『黛財閥 副社長 黛摩央』と名刺には書かれていた。


「黛財閥……!?」


「改めまして黛摩央(まゆずみ まお)です、よろしく」


 竜斗がその企業に驚きながらも摩央は彼に挨拶。



「黛財閥って……なんだっけ?」


「バッカ! 日本最大の大企業だよ……スポーツ用品とか食品とか幅広くやってて、CMでもお馴染みの……!」


「そんな凄い所の副社長が何で与一と……!?」


 摩央の身分が分かると部員達は一層ざわざわ騒ぎ出す。


「摩央さん、ご無沙汰してます」


「おお神奈ちゃん。また美しくなって、お母さんに似てきたな」


 礼儀正しく挨拶する神奈に、摩央は穏やかな笑みを浮かべた。


「あれー、僕とえらい態度違いますけど摩央さんまさか〜?」


「違うわ。お前らと違って良い子だからだよ、悪戯者の悪ガキ共」


「え〜、与一だけじゃなく僕も入っちゃうんですかそこ〜」


 神奈だけでなく双子とも軽口を叩き合える程の仲で、親しい感じが彼らから伝わって来る。


「これ、この辺りに置いて大丈夫ですか?」


「おう、そこそこ。ご苦労さん」


 男達の抱える青い機械が摩央の指示で置かれていた。


「なんですかこれ……?」


「簡単に言えば、お前らサッカー部の手助けになるスーパーアイテムって所かな。セットされたボールを高速に撃ち出せるサッカーマシンで、古いタイプのだけど結構役立つと思うぜ?」


 青い機械が何なのか分からない竜斗に、摩央は得意気に用意したサッカーマシンについての説明をする。


「そっちの学校やら顧問の先生には、ちゃーんと話したから大丈夫。遠慮なく使っとけ」


「あ、えっと……ありがとうございます」


 持ってきてくれた摩央達に対して、竜斗は頭を下げて礼を言う。


「ホント急なお願いだったのに、ありがたいです♪」


「ま……振り回される事は昔で慣れてるからな。こんだけやって1回戦負け、なんて結末は無しにしてくれよ?」


「そうならないよう、これで練習していきますからー」


 双子は揃ってサッカーマシンに近づくと、間近で目を輝かせながら色んな角度から見ていた。


「摩央さん、忙しい中で本当にすみません。兄達の無茶振りに応えてもらったりと」


「いいって神奈ちゃん。悪ガキ双子の事は頼んだよ?」


「ぶ〜、摩央さん差別は良くない〜」


「絶対に神奈贔屓だ〜」


「るせぇ、てめぇらは悪ガキ双子で充分だ。全く親父といい……!」


 軽口を双子と叩き合いながらも摩央は用は済んだと、足早に部下と共に去って行く。



「という訳で、桜見サッカー部にサッカーマシン君が新たに入部してくれましたー♪」


「ほら、竜斗ってマシンを使ったトレーニングもやってみたいとか言ったよねー?」


「いや、言ったけど……それでこうなるとは聞いてねぇし、色々追いついてなくて整理が出来てねぇからな!?」


 竜斗がマシンを使ったトレーニングも導入してみたい、と言った事が切っ掛けになったらしく、そこから与一と輝羅は動き出す。

 都大会のベスト16より先へ進む為、新たな練習方法を持ってきたのだ。


「使い方は──設定した後で機械にボールをセット、それでボタンを押すと……」


 神奈の方は説明書を見て、サッカーマシンの操作方法を覚えていく。


「とりあえず、どうすんのさキャプテン? 折角もらっちゃったし、試してみる?」


 副キャプテンの楽斗は乗り気な様子で、新たに加わったマシンを試したい。

 与一や輝羅からすれば心でバレバレだった。



 急遽、マシンの性能を見る為にセットプレーの状況が、部員達によって整う。

 ゴール前に敵味方が入り交じり、左コーナーにあるキッカーの位置には例の青い機械が佇む。


「じゃ、行くよー♪」


 マシンにボールをセットして発射する係は輝羅。

 やって見たくて自ら立候補すると、ウキウキに準備を整えて球を機械から発射させた。


 バシュッ ギュンッ


「うぉっ!?」


「ひぇっ!?」


 部員達の間を高速の球が風を切りながら通過。


 誰も放たれたボールに合わせたり触れたりする事が出来ない。


「あ、ゴメン。今のスピードMAXでやっちゃった☆」


「殺す気かぁ!」


「初見で無理だってー!」


「普通レベル1から徐々にだろうがぁ!」


 可愛こぶって謝る輝羅に、部員達から一斉にブーイングが飛び交う。


 ただレベルを落としてもボールが速い事に変わりなく、攻撃も守備も触れる事が出来なくて苦戦。



「じゃあ僕入るよー」


 そこに与一がDFとして参戦の為、ゴール前へと交代で入る。


『(何処に放り込んでくれんの輝羅?)』


『(ネタバレしたら練習になんないでしょ)』


 双子のテレパシー内では2人の読み合いが行われていた。


 輝羅のセットされた球がゴール前に放たれ、同時に与一が動き出す。


 影二に向けて出された高速の球、本人が反応するより先に与一は前に出て、左足で遠くへ完璧に蹴り出してみせた。


「何で……出来るの……!?」


「ちょ、反射神経エグいってー!」


 影二と楽斗は初見で合わせた与一に、それぞれ驚愕する。


「だって、これ昔からやってたし♪」


 実は初見ではなく昔から慣れ親しんだ物で、彼にとっては玩具の一つに過ぎない。


「お前マシン経験者だったのか!?」


「与一だけでなく僕もだからー」


「兄さん2人とも昔、それで遊んだりしてたね」


 幼い頃、遊んでいた玩具を語るように輝羅は懐かしそうに振り返ると、側の神奈も似た反応を見せる。


 やっぱ化物な双子だと改めて思う中でサッカー部にマシントレーニングが、この日に導入されたのだった。


 ────────

 与一「イタリアの自宅だけじゃなく今の家にも普通にあるよねー?」


 神奈「家の倉庫に仕舞ってるから、家ではあれを引っ張り出してゲーム感覚で遊んだりと」


 輝羅「5本中、何本を足に当てて蹴られるか、よくやったもんだなぁー」


 竜斗「どんな幼少期を過ごしてんだ双子……!?」


 輝羅「そんな訳で次回は息抜きの休日! のはずが一騒動が起こってしまう!?」

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