調査資料1


「うずくまるおんな


 小学五年生しょうがくごねんせいえーくんは、友達ともだちいえあそびに行って、すっかりおそくなっちゃったんだって。

 このあたりではよるになると、こしえさんっていうこわいおんなひとが出るからおそくなっちゃだめだよっておかあさんにわれていたAくんは、しまったなあ、こわいなあ、とおもいながら、くらみち早足はやあしあるいていたんだ。

 そうしたら、人気ひとけのないみちにさしかかったとき、なんだかいぬのうなりごえみたいなひくおとこえてきたんだって。

 野良犬のらいぬでもいるのかなあ、やだなあってAくんはおもったんだけど、いえかえるにはそのみちとおらなきゃならない。だから、おそるおそるあるいていったんだ。

 すると、ちょうど一本いっぽん電柱でんちゅう電灯でんとうれかかっていて、ちかちかと点滅てんめつしていたんだ。

 そしてそのしたに、Aくんのほう背中せなかけて、だれかがうずくまっているのがえたんだって。

 Aくんがよくると、それは大人おとなおんなひとだった。

 背中せなかけているからかおえないけれど、しろっぽい花柄はながらふくていて、かみながかった。

 そして、Aくんがいぬのうなりこえだとおもっていたのは、そのおんなひとくるしそうにうなるこえだったんだ。

 Aくんはこわいから、なるべくそっちをないようにとおりすぎようとしたんだけど、おんなひとはずいぶんとくるしそうにうなっている。

 すごく具合ぐあいわるそうだ。病気びょうきかな。それとも、けがをしたのかな。

 このままぼくがとおりすぎて、明日あしたあさ、このひと死体したいつかったらどうしよう。

 Aくんはだんだんそんなことが心配しんぱいになってきて、とうとう、

「あのう、大丈夫だいじょうぶですか?」

 って、ちょっとはなれたところからこえをかけたんだ。

 そうしたらおんなひとのうなりごえがぴたりとまった。

 そして、おんなひとかおげたんだ。

 Aくんは一瞬いっしゅん、おけみたいなかお想像そうぞうしたんだけど、おんなひとはすごい美人びじんだったって。

 おんなひとはゆーっくりがると、Aくんに、

「おねがいがあるの。いてくれる?」

 ってやさしいこえいてきたんだ。

 さっきまでくるしそうにしてたのがうそみたいだったって。

 Aくんは、心配しんぱいしてそんしたっておもって、

「ぼく、いえかえらないと」

 ってったんだけど、おんなひとは、

「おねがい。すぐにすむから」

 っていながら、Aくんになにかをしてきた。

 それは、でできたちいさなほとけさまだった。

 おてら本堂ほんどうとかにあるりっぱな仏像ぶつぞうとはちがって、小学生しょうがくせいったみたいな素朴そぼくなやつで、だけどかなりふるかんじだった。

「これをけずってほしいのよ」

 とおんなひとったんだ。

「あなたのつめで」

 そうわれて、Aくんはいたんだって。

 おんなひとすその木像もくぞう表面ひょうめんには、ひっかいたようなあとがたくさんついていたんだ。

 それはまるで、つめでひっかいたあとみたいだった。

 こわいし気持きもちわるいし、意味いみからなかったので、Aくんはそれをらないで、くびったんだ。

「いやだ。自分じぶんでやればいいじゃないか」

 って。

 そうしたら、おんなひとは、にいいってわらって、こうったんだって。

わたしは、だめなの」

「どうして?」

「だって、これだから」

 おんなひとは、自分じぶん両手りょうてげて、Aくんにせてきたんだ。

 電柱でんちゅうかりにらされたおんなひとはぼろぼろで、ゆびつめ一枚いちまいのこらずはがれていて、指先ゆびさきになっていたんだって。


(東京都K市)



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