第10話 しゅなんとか君



 いじめが始まったのは、今からちょうど一年ほど前の事だった。


 いじめの主犯は、同じクラスの佐藤さとう。下の名前は……しゅ、しゅ……いや、思い出せない……。人の名前を覚えるのはちょっとだけ苦手なんだ。

 佐藤は、転校初日、不安だった僕に話しかけてきてくれた。




『……………西村、陸……さん、ですよね……?』


 開口一番、本人確認。

 いきなり声をかけられて、僕は一瞬戸惑う。


『えっ、と……名前、は……』


 僕は戸惑いながらも、本心で名前がわからなくてそう聞いたら……


『えっ?』


 彼が無意識に発したその一言には、背負いきれないような闇が詰まっているような気がした。


 彼の顔は、暗闇の中で一筋の希望の光を見つけたような顔から、地獄のどん底に落とされたような顔になっていった。

 そしてしばらく下を向いた後、小さく言った。


『そっか……覚えてないってホントだったんだ……。』


『え? ごめん、聞こえなかった。もっかい言って……ください。』


 同い年とはいえいきなりため口は失礼かなと思い、敬語を付け足した。


『あ……。……………佐藤、――だよ。』


『――さん。よろしく……? ……。』

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