第3話 これが、真の力

 レイが名乗ったのを合図に、治安維持隊は悪徳冒険者三人組を取り囲もうとする。

「クソがっ!」

 マインは、仲間の闘士と魔術師を押しのけて壁がわりにし、包囲網からいち早く飛び出した。

「待たんかい、コラァ!」

 治安維持隊が止めようとするのも構わず、マインは宿の窓を突き破り、宿の前の大通りへと着地した。

 通行人が目を丸くする中、マインは人ごみに紛れようとする。


「おい、逃げるぞ」

 窓から顔を出したミストが、レイに言った。

 治安維持隊は闘士と魔術師を取り押さえている最中で、手が離せない。

 レイは、開け放たれた扉から部屋を後にしようとする。

「僕が行くよ。君のあとで」

 レイのアイコンタクトを向けられたミストは、にやりと笑った。

「はいよ。待ってるぜ」

 二人には、その一言で充分だった。


 ミストもまた、レイと同時に部屋を出る。ただし、窓からだ。

 マインは人通りが多い大通りを、通行人に紛れながら逃走する。ミストは大通り沿いに連なる屋根の上を走りながら、マインの姿を追った。

 我武者羅に逃げるマインはやがて、噴水がある広場に出る。

 彼がまとう物々しさに驚き、人々がざわついて遠巻きにしたところで、ミストが到着した。

「助かるぜ。ここなら存分に暴れられる」

 屋根からひらりと飛び降りたミストが、マインの行く手を塞ぐ。

「ハン、そいつはこちらの台詞だ!」

 マインは剣を構える。スキルをかけ直しており、充分戦える状態だ。

「シーフがたった一人で追いかけてくるとは。とんだ命知らずだ」

 マインはミストを鼻で嗤う。

 甲冑をまとってロングソードを構えるマインに対して、ミストは最低限のレザーアーマーとナイフのみだ。

 白兵戦で、どちらが有利か明白だ。それに加えて、マインには対人戦用のスキルもある。

 レイや治安維持隊が追ってくる様子はない。通行人は遠巻きに見ているだけだ。

 ミストは鞘からナイフを抜く。その刀身の頼りないこと。間合いではマインが圧倒していた。

 マインは、勝利を確信した笑みを浮かべた。

「ここならいくらでも剣を振るえるぜ! 今度こそ、真っ二つにしてやらぁ!」

 マインが剣を振り被り、ミストが迎え撃たんとする。


「悪いな。お前の思いどおりにはならねぇよ」

 ミストはナイフで応戦するよりも早く、スキルを発動させた。ミストの身体が一瞬輝き、マインが目をすがめる。

「なんだぁ? 俺の装備を盗もうってのか?」

 ミストのスキルが、「盗む」だということをマインは知っていた。その名の通り、対象の所有物を盗み取る技術で、マインは手のうちを何度も見ている。

 影響を及ぼす範囲は、得物を含んだ間合いの中だ。ナイフを手にしたミストの間合いに入らなければ、どうということはない。

 しかし、マインの剣撃を受けようとしていたミストが、突如として動いた。

 あっという間にマインの懐に潜り込み、ナイフを閃かせる。

「踏み込んできただと……!」

 マインは、ミストが自らの間合いに入るのを待っているものだと思っていた。だからこそ、一瞬の躊躇があった。

 しかし、ミストはものともせず、マインの間合いに踏み込んだ。マインの一撃に、恐れを全く抱いていなかった。

 ミストとマインの目が合う。

 ミストの双眸はあまりにも鋭く、そして冷ややかであった。ほとばしる殺気に、マインは反射的に退きそうになる。


 しかし瞬時に、その心配は無用だとマインは思った。

 ミストのナイフでは、マインの甲冑を貫けない。スキルで甲冑を盗み、そのあとにナイフで切りつけようとするつもりかもしれないが、マインの剣が届く方が早い。

 マインが心掛けるべきは、ただ一つ。

 装備を盗まれても動揺しないことだ。ミストに一撃を浴びせることができれば、それで終わる。

 だが、マインの目論見は全て無に帰した。


「俺が全部、お前に手のうちを見せていたと思ったのか?」

「は?」

 ミストの言葉に、マインは目を丸くする。

 刹那、ナイフの切っ先がマインの甲冑に触れた。ナイフごときでは、浅い傷しかつけられない、高価な甲冑だ。

 しかし、ミストがナイフを振り抜いた瞬間、マインの甲冑は一瞬で一刀両断になった。

「なんだ……これは……!」

「『急所狙い』。お前のスキルだぜ」

「どうして……」

「俺の本当のスキルは『強奪』。スキルも盗めるんだよ」

「なっ……! どうしてそんな、上級スキルを……?」

「さあ、どうしてだろうな?」

 ミストはにやりと笑うと、ナイフの柄を無防備なマインに打ち付けた。

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