第2話 新人シーフの正体、それは
激しい怒声と、鎧や剣の鍔鳴りが聞こえる。
その気になれば、いつでも扉を破れるのだろう。マインとその取り巻きたちは青ざめた顔で扉を見つめていた。
「治安維持隊……だと? それじゃあ、あいつらと連携しているテメェは、公安か……!」
マインは、信じられないような顔でミストを見やる。
公共安全保護隊。略して、公安。
治安維持隊は、街の秩序を守る武装集団のうちの一隊だ。そして、公共安全保護隊とは、一般人に紛れつつ、彼らと連携して隠れた悪事を暴く者たちである。
ミストは黙っていた。
しかし、マインたちは確信に満ちていた。
「公安も鼻が利くじゃねーか……。だが、テメェを亡き者にすれば証言者はいなくなるぜ!」
マインは再びミストに向き直る。
そして、居竦んでいる取り巻きにこう言った。
「おい、テメェら! なんとしてでも扉を守れ!」
「はい!」
取り巻きの魔術師と闘士は、慌てて扉を押さえる。
だが、扉を叩く人数が多すぎる。破られるのも時間の問題だ。
「ミスト、悪いな。公安だと分かった以上、尚更、テメェを生かしてはおけねぇ」
「俺を殺したところで、治安維持隊が禁止薬物を見つけたら終わりだぜ?」
ミストは面倒くさそうな顔をする。
だが、マインはお構いなしだ。
「うるせぇ! テメェをぶっ殺さねぇと気が済まないんだよ!」
マインは剣を構え、気力を注ぐ。
刹那、マイン自身が輝き、本人と剣に異能が宿った。
「スキルを発動させた……?」
ミストが呟くと、マインは口角を吊り上げて嗤う。
「俺の『急所狙い』のスキルを発動させたのさ。これで、テメェを一刀両断にできるぜ」
「『急所狙い』は剣士の初級スキルだが……お前のそいつはマスターレベルだな」
特定のスキルを極限まで熟練させると、マスターレベルに到達する。そうなると、初級スキルでも強力になるのだ。
「お前としばらくパーティーを組んで冒険していたが、スキルを熟練させるまで熱心に戦っていたようには見えない。まさか……」
ミストの言葉に、マインは更に嫌な笑みを浮かべる。じりじりと距離を詰め、嬲るような眼差しでミストを眺めていた。
「邪魔者を消し続けていたんだよ、こんな風にな!」
マインは剣を振り被り、ミストを一刀両断にせんとする。
しかし、ミストは間髪を入れずに回避。切っ先は床に打ち付けられ、木床が真二つになった。
下階へと貫通せんばかりの威力だ。木床には細長い穴が開き、下階の様子が見えるようになる。
「さすがに、シーフはすばしっこいな。次は避けるんじゃねーぞ」
「避けるなって言われて、避けないやつがいるかよ」
ミストはひょいと跳躍し、机の上へと退避する。だが、マインの切っ先はミストを追ってきた。
「どこに逃げても無駄だぜ!」
マインの一太刀が振るわれる。しかし、ミストは跳躍して逃れ、代わりに机が一刀両断となった。
「こいつ、ちょこまかと……!」
「マイン! そいつ、スキルの効果切れを狙ってる!」
扉を押さえている魔術師が、声の限り叫ぶ。
扉の向こうの怒声は大きくなり、扉も限界を迎えていた。大きくたわみ、扉の向こうの一団が雪崩れ込もうとしているのがわかる。
「時間稼ぎなんて、ダセェことしやがって!」
「禁止薬物を製造してるほうがダサいだろうが」
ミストはクローゼットの上に乗り、呆れるように肩をすくめた。そんなミストの態度が癇に障ったのか、マインはわなわなと震える。
「クソが、調子に乗りやがって……! だが、もう逃げられないぜ!」
クローゼットの上は、ミストが飛び上がれるだけの高さがないし、背後は壁だ。しかし、マインの剣はロングソードで、ミストは間合いの内側である。
発動させたスキルを長く維持するのは難しい。マインの『急所狙い』も、あとすこしで切れてしまう。
だが、マインには勝算があった。
「今度こそ、一撃で仕留めてやるぜ!」
マインは構えを変える。逆袈裟斬りの姿勢だ。
「待って! ミストの狙いは……!」
ハッと気づいた魔術師が叫ぶが、マインは既に動いていた。
強力な一撃が繰り出される。ロングソードの切っ先は容赦なく、ミストの足場になっているクローゼットを切り裂いた。
「なっ……!」
ミストの顔に動揺が走る。足場が崩れれば、逃げることも不可能だ。
マインの狙いは、そこにあった。
しかし、ミストにも狙いがあった。
「――なんてな」
ミストは一瞬だけ宙を浮くが、自らに迫りくる切っ先へと降り立つ。剣撃を柳のように受け流しつつ、足場を確保してしまう。
「こいつ……!」
「悪いな。俺の目的はこっちなんだ」
ミストは剣の上からマインを見下ろしつつ、攻撃を受けたクローゼットのほうを顎で指す。
マインの一撃を受けたクローゼットは、ものの見事に真二つになっていた。
その姿は、割れた卵のごとく。中に収めていたものが、どっと溢れ出す。
「ウワーッ!」
紙に包まれた白い粉だ。マインたちが製造していた禁止薬物である。
クローゼットにみっちりと詰まっていたため、とっさに隠せる量ではない。マインを止めようとしていた魔術師は頭を抱え、闘士は言葉を失っていた。
そんな二人の力が弱まったのを見計らってか、外界との隔たりになっていた扉が弾け飛ぶ。
「ぎゃーっ!」
魔術師と闘士は床に転がり、扉の向こうにいた治安維持隊が扉の破片を踏みつけながら突入した。
甲冑に身を固め、厳ついタワーシールドを構えた集団だ。
悪徳冒険者三人では、太刀打ちできないことが明らかである。
その先頭にいた人物は、頭部の甲冑を静かに取った。
甲冑の下から現れたのは、荒々しい現場に似合わないほど爽やかな雰囲気を醸し出す青年であった。
太陽のように輝く金髪と、真っ直ぐな眼差しが眩しい。
彼は青い瞳でマインたちを見つめ、こう言った。
「僕は治安維持隊隊長のレイ。冒険者パーティー『銀狼』。禁止薬物製造および恐喝および殺人未遂の罪で逮捕します」
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