第45話 暗殺計画



「落ち着くんだ」



 リア様が連れていかれてしまった。


 力づくでも止めようとしたのだがリア様自身が俺を制止し、着いて行ったのだ。


 そして俺達はそのままキース家の客室をそのまま使わせてもらっている。



「リア様、どうして……」


「僕にも分からない。分からない事ばかりだ。というか暗殺ってそもそもなんの話だ?」


「実は……」



 街であった事を話すとナルドはなるほどな……と一言呟いた。



「君はこの国の女王についてどれだけの事を知っている?」


「正直全く」



 即答するとナルドが笑った。



「だろうな。彼女はね。数年前、兄三人が病死して急遽引っ張られて女王になったんだ」


「兄三人が病死?」


「そうさ、元々彼女の王位継承権は低い。兄三人がいるのだから当然だね。だから王宮の外の大貴族家へ出されていたんだ。そこの誰かの嫁になる為にね。外出好きでよく外にも出てたんだ。王宮外の自由が性に合ってたんだろうね。だが、三人の兄が死んだせいで女王に祀り上げられてしまったのだけど」



「へえ……それにしても兄三人が病死ってあり得るんですか?」


「あり得るわけないだろう。十中八九暗殺だ。だが、警備は王家の遠縁である二大貴族家が行っている。なら犯人は誰かってのは分かるだろう?」



なんとなくパーティでリア様とリーゼ様が話していた内容を思い出して納得してしまう。



「まず間違いなくどちらかの家、もしくは派閥が関与したに違いない。では彼女が最近貴族のパーティに顔を出さない理由がわかるかい?」


「毒殺が怖いから?」


「そうだね。だからキース家でパーティが行われるからと招待状を送ったんだけど、本当は断られた」



 なるほどね、ん?



「でもパーティに来てましたよね?」


「君らがいたからね」


「…………?」


「彼女はどちらかの貴族……もしくは両方が自分を殺そうとしていると気づいていた。だからどこのパーティも断っていた。けど自分の命を救ってくれた二人が現在キース家のパーティに呼ばれてきてるとしたら?」


「キース家は安全だと思いますね」


「そういう事だな。わざわざパーティに呼んだんだ。キース家の息がかかっていると思う。そんな奴らが命を救ってくれたんだ。安全だと確信したことだろう。だが解せない事がある」



「解せない事ですか?」


「ああ、どうして当家が疑われていたのかって事だ」


「…………? キース家とイズールド家に命を狙われていると思ったからなのでは?」


「そこがおかしい、ナ……女王がキース家を疑うわけがないんだ」


「どういう事ですか?」



 訳が無い?



「それは……」


「リーゼ様は元々当家にいましたからね」



 黙ったナルドの言葉に続くように扉から答えが返ってきた。


 見れば飄々とした表情のキース家の騎士団長、ナスタ・ヘンザが立っている。



「失礼、報告に来た途中で話が聞こえてしまいましたので……ナルド様、お話しても?」


「……勝手にしろ」


「では、リーゼ様は元々ナルド様の兄上、シング様の許嫁候補として当家に来ました。ですがナルド様と仲の良さから、シング様が進言しナルド様の許嫁と決まったのです」



 ナルドの許嫁か、ああ、それで親しそうに名前を……。



「ですがリーゼ様はご兄弟の死亡で女王に、許嫁の話は消え。その後ナルド様は出奔しました」


「別にナトラが原因じゃない」


「そうかもしれません。ですが向こうはそうは思いません。自分と仲の良かったナルドが出奔した。キース家は王家に連なるもしかしたら自分の暗殺を企てたキース家に嫌気がさしていなくなったのでは? ……と」



「考えすぎだろ」


「ナルド様はそうおっしゃいますがナルド様がいなくなってから数年、リーゼ様は先日のパーティまで当家へ一度も来ておりません。意味がお分かりですか?」


「じゃあ何か? 我が家がナトラに疑われていたのは僕が原因だと?」


「私の口からはそれ以上は……」



「えっと……質問良いでしょうか」


「はい?」



 ナルドと女王の関係は分かったが俺が本当に知りたい論点はそこじゃない。



「それで、何故リア様が暗殺の犯人に疑われているのですか?」


「はい、その報告で参りました」



 ナスタはナルドをちらっと見てから、



「リーゼ女王陛下ですが、昨夜から意識不明の重体となっています」


「え?」


「ナトラが? どうして!」


「詳しくは分かりませんが先日のパーティ直後から体調を崩しておりまして、もしかして薬を盛られたのでは……と噂が出ております」


「馬鹿な、当家で行われたパーティでそんな事があるはずが」


「ですがその犯人として疑われているのがリア・ローファス様なのです」


「リア様が? あり得ない、あり得ないですよ」



 友達とまで言われていたリア様がそんな事をするはずがない。



「そうだな、あり得ないな。だがもっと不思議なのはリア様がどうして黙って着いて行ったかだ。連れていかれている時妙に落ち着いていた気がする」



 それは思った。


 正直俺に何とかしろと言ってくれたら力づくで解放までは出来た。


 何か考えがあったんだろうか。



「あの……良いでしょうか」



 ずっと部屋の隅で沈黙を貫いていたケルンがおずおずと手を挙げた。



「そういえばケルンはリア様に頼まれて何かを調べていましたよね」


「はい、これは皆様には時が来るまで黙っているように……と言われていたのですが、あまり成果が無くて、だから恐らくリア様はこれを好機と思い捕まったのではないかと」


「一体何を調べていたのですか?」



 三人の目線が集まる中、ケルンは静かに一枚の紙を出す。



「以前のパレード時にリア様の父君、レイルローファス様を狙った襲撃……そして先日テイズ高原においてウェルス公国と繋がり、リア様の命を狙った犯人が誰なのかをです」

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