第40話 王都からの招待状
あれから一月が経過した。
鉱石を用いてハイフは様々な武具を作った。
中には相当な業物もあり、やはりハイフは腕の確かなドワーフなんだなと思わされる。
「なかなか良いものが出来てますよね」
本部にケルンがやってきて開口一番、ハイフの作品を褒めた。
「はい、思っていた以上に素晴らしいと思います」
「知っているか? ライベルがたまに見に行ってるらしいぞ」
「ライベルが?」
「へえ、ハヤトさん以外にはあまり興味を示さなかったライベルさんが……珍しいですね」
「珍しいっていうか変な物でも食べたんじゃないかって僕は疑っている位だよ」
「酷い言い草ですね」
「まあ、ライベルが行くとハイフが喜んでる位だし、意外とあいつら仲いいのかもしれないな」
「相性もあるかもしれませんね。ただあの武具をここで売るというのはもったいない気がします」
「やっぱりケルンさんもそう思いますか?」
「はい、ここで売るには少々質が良すぎますから。鉄鉱石だけの武具ならともかく、白石も混ぜての武具はもっと大きな街ならば倍以上の値段がついても良さそうです」
「そうですよねえ……」
三人で考えていると本部の扉が開いた。
「ここにいましたか」
現れたのはリア様だ。
「実はハヤトさんにお願いがあるのです」
「お願いですか?」
「はい、実はとある貴族から招待状が届きまして、以前テイズ高原での戦いで王都より援軍を送れなかった件の詫びと、ローファス家と親交を深めたいからパーティに招待したい……と言われています」
「へえー」
王都の貴族からパーティの招待か、前回の戦いそんなに活躍したかな。
いや、待てよ。
「武具……王都で売っても良いですね」
「はい、俺もそれ考えていました」
ケルンが俺が考えた通りの事を言ってくれた。
「では売るための武具を持っていきましょうか」
「はい。あ、そうだ。ハーゲン商会を経由して売って貰いましょう。そうすればきっと更に高値で売れるはずですよ」
「ハーゲン商会を経由ですか。分かりました。ではそれで行きましょう」
俺とケルンがテンションを上げている中、ナルドはあまり興味なさそうだ。
「ふーん、王都ね。行って来たら良いんじゃないか? 君は確かルグナの王都に入った事がなかっただろう? あそこは良いぞ、広いし賑やかだ」
ナルドが他人事のように言うが、そこにリア様が口を挟む。
「ナルドさんも行くんですよ?」
「僕が? どうして? 嫌ですよ、何で僕が貴族のパーティになんて」
リア様が手紙を渡すとナルドはその差出人の名前を見た瞬間、固まった
ケルンが横から覗き込んで目を見開く。
「バサラ・ドウ・キース……キースってあの?」
「有名なんですか?」
「有名もなにも、キース家はルグナ王国二大貴族の一角、ルグナ王家の末席にすら位置する名門貴族ですよ」
へえ、そんなに有名な貴族がどうしてナルドを?
「これは逃げられませんね」
「くそ、どこで僕を知ったんだ」
「えっと、どういう事ですか?」
俺の問いかけにナルドは少し迷った様子を見せてから深くため息をついた。
「……わかった。話すよ。黙ってて悪かった。僕の本名はナルド・ルウ・キース。キース家の人間なんだ」
☆☆☆
王都リフル
大陸東部にあり、百年前から王城の地と呼ばれていた。
街の真ん中を通る川は北の山脈から流れる清らかな水であり、王都の住人の生活に役立っており、南には田園地帯が広がって、王都の食を支えている。
東西に延びた街道は整備がしっかりされていて、王国中から様々な物資を配送する道が出来上がっている。
城壁は高く、それでいて街の階級ごとに分けられた壁は四重にも連なり、まさに難攻不落の都とも呼ばれていた。
都の中央には白亜の尖塔が伸び、荘厳な王城が存在。
王城を支えるは王家の守護者、武の名門キース家と知の名門イズールド家。
双頭の守護者が抱える精強な騎士団により王家と王都は守られている。
――と、ナルドがまるで学校の先生のような説明をしてくれた。
分かりやすく、それでいて自分の家を誇らしく思ってるんだな……と言うのが伝わってきた。
ちなみに王都に来ているのは俺とリア様とナルドとケルンだ。
「ナルドさんは詳しいですね」
「ち、知識として知っているだけです」
リア様がにこやかに笑いながら言うとナルドは恥ずかしそうに笑った。
城門も招待状を見せたらあっさりと通してくれたのだが。
「さて、どうしましょうか」
活気のある街を見ないでそのままナルドの実家、キース家に行くかどうかという話だ。
「とりあえず馬車に積んである武具を売ってからの方が良いんじゃないか?」
「そうですね。では先に王都にあるハーゲン商会に向かいましょうか」
「そうしましょうか」
「その値段はおかしいでしょう」
武具を買い取ってもらうためにハーゲン商会に来たのだが、思ったより値段が付かないようだ。
「この武具は白石と鉄鉱石をドワーフが混合させて作った一級品の武具ですよ? それがこんな値段なわけ無いでしょう」
「そんな事言われてもね、どこか王都貴族のお墨付きがあるわけじゃあるまいし」
ケルンの前で男は馬鹿にしたように笑う。
「なによりあんたがどこの誰かも知らないし」
「ケルンと言ったでしょう。十年前ハーゲン商会で修行していました。それにこの件はハーゲン様も知っている事ですよ?」
「知らんね。俺は五年前にここに来たがお前のような奴は知らない」
「年数が被ってないですからね! ここのトップは、ビルスはどこに行ったんですか」
ビルスの名前を出した瞬間、男の顔色があからさまに悪くなった気がした。
「あの若造は今ここにはいないよ。ハーゲン様が帰ってこれないから代わりに国内を飛び回ってる。それに今交渉しているのは俺だ。俺がこの値段と言ったらこの値段でしか受け取らない」
「あなたね」
「外まで叫び声が響いてるぞ。一応聞くけど様子はどうだ?」
ナルドが怒号の響く店に入ってくる。
「どうも難しそうですね。ケルンさんが粘ってますけど」
「あの男性の方、頑固な方みたいで」
「ケルンって元々ここの商会にもいたんだろう? それから一人で頑張ったそうだけど……」
「はい、ただ五年前に商会に入ったっていうあの人の話だと知らないみたいです」
「あれ? この店のトップとは顔なじみって王都に来る前の馬車の中で言ってなかったか?」
「その顔なじみのトップがいないみたいなんですよ。ハーゲン様も連れてきた方が良かったかな」
三人で二人の様子を見ていると。
「邪魔するぜ」
店に新たに男が入ってきた。
白銀の鎧を身に纏った茶髪の男だ、無精ひげが生えていて俺より頭一つ分背が高い。
「おうおう、テレジどうしたよこの騒ぎは、通りを散歩がてら警備してたら気になっちまったよ」
「これはこれはナスタ様、お恥ずかしい所を。実は怪しい商人達が粗雑な武具を売ろうとしてきまして、質相応の値段を付けたらごねるごねる。何とかして下さい」
「怪しい商人ねえ」
男は順々に俺らを見ていって、一点で目が止まる。
「あー……」
「彼ら見るからに怪しいでしょう? 困っているんですよ。ハーゲン様の名前は騙るし、王都貴族のお墨付きでもあれば話は別ですけどそう言ったことも無いですし」
「テレジ」
「はい」
「高く買ってやれ」
「……え? ナスタ様、それはどういう……」
「貴族のお墨付きが必要ってんなら主家が責任を持つ。だから王都外から来たからと嫌がらせをせず買い取ってやれ」
「え、ええ……」
困惑するテレジとかいう商人を放り、男はずかずかと歩いてきて、目を逸らしているナルドの前に立つ。
そして手を胸に置き、一礼をする。
「お久しぶりです。ナルド坊ちゃん」
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