第37話 帰還



 高原の砦に戻るや否やすぐに担がれていたリヒトは個室のベッド行きとなった。


 その身体は傷だらけでよく生きていたものだと思ってしまう。


 というか隣に立つリア様怖い。


 氷のような冷たい目線でベッドに横たわるリヒトを見ている。



「リヒト、私の命令に逆らいましたね」


「生き恥をさらしてしまいました」



「そうですね。あれだけ私の文句を言って死地に向かったくせに、生還してしまいましたからね」


「申し訳ありません」



「許しません……私は命令を聞かぬ部下に罰を与えねばなりません」


「何なりと」



 リア様がニコリと笑った。



「ヒューネルに戻ったら暫くの間、街から出るのを許しません。速やかに溜まった書類仕事を片付けなさい」


「それは……」



「これまで以上に内政に励みなさい、長く生き、私をもっともっと助けるようにしなさい」


「……畏まりました」



 その辺で俺は席を外した。





 高原の砦を歩いていると一際偉そうな歩き方をした男が前からやってきた。


 人を威圧するような三白眼は、日本にいた頃の俺ならまず目線を外し道の端を歩き、目に着かないようにするレベルだ。ガラが悪すぎる。


 そして若干後ろをドウタ兵士長が恐る恐る歩いている。あれ、偉いのって向こうじゃなかったか?



「ハヤト様、ご無事で何よりです」


「いえいえ、兵士長も元気そうで」



「よう、てめえは無傷なんだな」


「はい、どうにかですけど。砦防衛有難うございました」



「ふん、雑魚しかいなかったから楽だった」


「一番強い敵は俺の所にいましたからね」



 言った瞬間舌打ちされた。やめなよ、兵士長がビビってるよ。



「てめえが勝てたなら俺でも勝てたな」


「かもしれませんね」


「ふん」



 ライベルは鼻で笑ってから通り過ぎていく。


 なんか少し前から俺に戦おうって言ってこなくなったな。いや良いんだけどね。


 後ろ姿を見ているとピタリと止まった。



「嬢ちゃんは連れて帰ってきたのか」


「はい、間に合いましたので」


「そうか」



 そういえばライベルはリア様に何故か優しいんだったな、もしかして好きだったりするのだろうか。


 もしそうならどんな反応すればいいんだろう。



「ライベルはリア様を気に入ってるんですか? 気にかけていますけど」



 そういうとライベルは不機嫌そうな顔をしながらちらっとこっちを見る。



「てめえが大事にしてる奴を気に掛けるのは当然だろ。馬鹿か」


「え?」


「……ふん」



 意外過ぎる返答に思わず目を瞬かせていると、ライベルは舌打ちをしてそのまま行ってしまった。





 それから十日もしないうちにウェルス公国軍が退却した。


 噂では和睦の使者が王都へ行ったようだ。


 


 返答は返していないそうだが、きっとそれは上手くいくだろう。


 残念なことに王都の中枢部分の誰かがウェルス公国と繋がっているだろうから。





 ウェルス公国軍が退いてから草原の砦からナルドとフェイルがやってきた。


 フェイルは俺の顔を見てご無事で何よりですと丁寧な礼を。


 ナルドは僕のおかげだろ? 感謝しろよ。と肩を叩いてきた。



 家督を継げなかったから家を飛び出したという話だったが、今日までの仕事ぶりを見る限りだとやはり、ナルドは優秀だと思う。


 彼の実家は彼を当主に据えなくて良かったのだろうか。


 いやまあ、俺としては助かったけどね。




 その後は砦に多少の兵を置いた後、それぞれの街に戻った。



 死んだ兵の家族への補償や新しく出来た砦の人員配置などやることはまだまだある。



 ともかく、ウェルス公国との戦いはこれで終結した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る