柔らかな文章と秋の香気に包まれた、小さな奇跡のような一編です。血ではなく本を糧に生きる吸血鬼と司書の交流は、静けさの中に確かな熱を秘めています。語感、間、情景描写すべてが詩のようで、読後に残る余韻が心地よい珠玉の短編です。
このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(178文字)
この作品は、読書という静かな行為の中に「愛」と「永遠」を見出す、極めて詩的な短編です。金木犀の香り、秋の風、本をめくる音……そのひとつひとつが丁寧に描かれ、まるで文学の中に迷い込んだような没入感があります。血を吸うかわりに言葉を味わう吸血鬼と、本を愛する司書。二人の時間は穏やかで、ページの隙間から光が差し込むような美しさがある。激しさよりも、静けさの中に宿る情熱が心に残る、まさに“読む幸福”を感じさせる物語でした。