第3章 初依頼! スライム退治とくしゃみ暴発事件

「おめでとうございます、リュウさん! 本日から正式に冒険者です!」


ギルドの受付嬢・リリアが、にこやかに言った。

机の上に置かれたのは、手のひらサイズの金属製カード。

「冒険者登録証」と呼ばれるもので、これを持っていれば各地のギルドで依頼を受けられるらしい。


「はは……なんかゲームみたいだな……」

「ゲーム?」

「い、いや、なんでもない。」


リリアは小首をかしげたが、気を取り直して言った。

「それでは早速、初めての依頼をご紹介しますね!」


カウンターに置かれた紙には、こう書かれていた。


【依頼内容】

村の外れの森に出没するスライムの駆除


【危険度】★☆☆☆☆

【報酬】銅貨10枚

【備考】初心者向け


「スライム、ねぇ……。ま、いかにも最初っぽいな。」


リックが隣で笑った。

「お前のくしゃみなら、スライムどころか森ごと消えるんじゃねぇか?」


「縁起でもないこと言うなよ!」



◆ 森の入り口にて


森の入口には、湿った草の匂いが漂っていた。

木々の間から差し込む光がちらちらと揺れ、どこか幻想的だ。


「……静かだな。」

「スライムは静かに近づくからな。油断すんなよ。」


リックが弓を構える。

一方の俺は、くしゃみ暴発を防ぐために鼻に布を詰めていた。


「おい、それ……」

「予防策だ。人間用安全装置。」

「いや、見た目がヤバい。」


しばらく歩くと、ぬるりと音がした。

木の根元に、青く光るゼリーのような物体がうごめいている。

スライムだ。


「よし、出たな。数は……一匹か。リュウ、お前の出番だ。」


「……任せろ。」


俺は深呼吸をし、くしゃみを押し殺すように構える。

今回は吹き飛ばさない。

“くしゃみ威力100”を、ピンポイントで使うんだ。


鼻の奥に、ムズッと来るあの感覚。

それを、喉の奥に魔力としてため――


「は、はっ……ハックショッ!!」


ドォォォン!!


スライムどころか、森の木々がまとめて吹き飛んだ。


「おいぃぃぃ!!!」

リックが絶叫する。

「森が、森がなくなってんぞ!! スライムどこいった!?」

「……たぶん、宇宙。」



◆ ギルドにて


「……つまり、スライムは倒せた、と。」


ギルドに戻った俺たちは、報告を終える。

リリアは書類にペンを走らせながら、何とも言えない顔をしていた。


「はい。完璧に……跡形もなく。」

「森ごと、ですね。」

「はい、すみません……」


「まあ……依頼は“駆除”ですし、一応達成ということで。」


「まじかよ。」とリックがぼそっと呟いた。

だがリリアは真剣な目で俺を見る。


「リュウさん、あなたの力は確かに強力です。でも、その威力を制御できないままでは、誰かを傷つけてしまいます。」


「……わかってます。練習します。」


リリアは少し笑って言った。

「なら、明日。訓練教官を紹介します。あなたの“くしゃみ”を制御するための、特別な訓練を受けてもらいます。」


「特別訓練……?」


その言葉に、俺の胸は少し高鳴った。

くしゃみで世界を壊すなんて冗談みたいな話だが――

もしかしたら、本当に“使いこなせる”かもしれない。



その夜。

村の外れで月を見上げながら、リックが笑った。


「なあ、お前……その力、マジで世界変えるかもな。」


「くしゃみで世界救うとか、冗談にもほどがあるだろ。」


「いや、そうでもねぇかもな。」


風が、鼻先をなでた。

――くしゃみが出そうで、出ない。

そんな微妙な感覚のまま、夜は静かに更けていった。

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