【第9話】 不死鳥の墜落
朝。
SNSのトレンドが騒がしかった。
《#正義で稼ぐ》《#更生ヒーロー》《#報いの炎》
その中心に立っていたのは、見覚えのある顔だった。
あのとき——理不尽な炎上で潰れかけた店の店主。
俺の改変によって助かったはずの人間。
今では「フェニックス」と名乗り、
正義を掲げて他人を“晒す”配信をしている。
背後にはスポンサー企業のロゴ。
投げ込まれたスパチャの額が、画面の隅で光を放っていた。
《フェニックスは“報道バラエティ”として放送登録済み——番組は「更生の証」を謳い、企業スポンサーが多数付帯》
《※法の適用範囲外と判断されるケースがあるため、当局は慎重な対応を迫られている》
「俺は一度地獄を見た男だ!
だから言える、悪は許すな!
次に燃やすのはこいつだ!」
指差された一般人の顔が、赤いサムネに並ぶ。
観客のコメントが流れる。
《草》《さすがフェニックス》《正義の炎!》《バズれ!》
薫はスマホを握りしめ、息を呑んだ。
(“報道バラエティ”、だと? 笑わせる。
公益性を名乗れば、何でも許されるのか。)
画面の隅で、スポンサーのロゴが踊っている。
金が付けば、正義は“番組”になる。
(……救われた側の人間が、今度は裁く側か。)
(痛みを忘れた瞬間、人はまた加害者になる。)
フェニックスは画面の向こうで叫んでいた。
「こいつらを──俺の転生の炎で裁くっ!!」
コメントが流れる。
《草》《台本くさ》《神回きたw》《通報したww》
背後のドアが乱暴に開く。
「フェニックス・タモツ!
ネット誹謗罪および偽装報道の容疑で逮捕する!」
警察に羽交い締めにされながらも、
フェニックスは必死にカメラへ顔を向けた。
「俺は──何度でも蘇る! 不死鳥のように!!」
映像が乱れ、配信は途切れる。
モニターの赤が、一拍だけ明減し、
秒針が、わずかに前へ進んだ。
世界が、静かに脈を打った。
コメント欄には
《演出?》《これマジ?》《タモツ逝ったw》
の文字が残った。
画面を閉じる。
指先が熱い。
電流が神経を走り、視界が一瞬白く跳ねた。
(……この世界はもう、救いようがないのかもしれない。)
「……安心しろ。次はない。」
──カンッ。
足元で寛いでいた小鉄が、
こちらを見上げて、ゆっくりと目を細めた。
「燃え尽きた灰の中にも、また種を蒔く奴がいる。
……そうやって人は、何度でも壊れていく。」
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