第29話 絵画展

 11月の下旬、美術サークルの希望者が参加する“小さな絵画展”が開催された。私の作品も展示される。

 早速休みの日に、はるくんと一緒に見に行くことになった。


 木枯らしが頬を刺すように吹いていた。そのたびに、はるくんが私の手を包み込む。彼は私の手を自分の上着のポケットに忍ばせて微笑む。風は冷たいのに、はるくんの手だけはあたたかかった。

 

「はるくん……あったかい。右手だけ」

「じゃあ左手に変える?」

「……それじゃあ何回も交代しなきゃいけないね」


 こんなことを話していると会場に到着した。レトロな建物の1階に展示スペースがある。一般の参加者の展示もあるので本格的な作品も多い。


「……大人っぽい作品展だな」とはるくんが周りを見回している。

 私もひとつずつ鑑賞していく。秋がテーマで落ち葉や焼き芋、ハロウィンや暖炉に集まる家族など様々な絵画が並び、秋冬を味わうことができる。


「あ、奈々ちゃんの絵だ」

 私の絵は大学の中庭の“秋”を描いたもの。校舎と紅葉した木々が並んでいる風景が綺麗で、絵にしてみた。

「綺麗だね。こんな庭があるんだ」

「うん、私のお気に入りの場所なの」


 毎年秋になると、はるくんに私の絵を見てもらっていた気がする。だんだん上手くなっているといいんだけど。

「秋といえば奈々ちゃんの絵だよね」

「うん、いつもはるくんに見てもらってるよね」


「僕、やっぱり奈々ちゃんの絵が好き」

 そう言われて私は顔が赤くなる。作品を褒められるのは嬉しいけど、はるくんからの“好き”という言葉は特別感がある。

 

「ありがとう、嬉しい……」

「上手く説明できないんだけど、色の使い方が“ああ、奈々ちゃんだ”って思う」

「そうなんだ」

「うん……僕ぐらいにならないとわからないよ、こういうの」

「ふふふ……」


 私はもう一度はるくんと手を繋いで寄り添っていた。いつも私の作品を見ながらこうやって一緒にいるな……。

 そう思っていたら、後ろからあの声がした。


「……奈々美?」


 振り返ると、そこにはお母さんと松永先生が立っていた。


「お母さん……」

 私たちは恥ずかしくなってパッと手を離す。

「ちょうど会えたわね、竹宮くんも久しぶりね」

「あ……ご無沙汰しています」


 はるくんと手を繋いでくっついてるところ、見られたよね。まだ心の準備ができていないけど、これはちゃんと話さないといけない……かな。

 

 お母さんと松永先生は、私の作品を見てくれた。

「綺麗な中庭ね。奈々美は細かいところまで丁寧だわ」

「そうだな、秋らしくてゆったりした風景だ」

「ありがとう」



 ※※※



 私たち4人は展示を見たあとに、カフェに寄った。

「それで……2人は付き合ってるのね?」

 少し緊張している私とはるくんを前に、お母さんが言った。

「うん……彼とは、高校生の時から」

「な……奈々ちゃんとお付き合いさせていただいております」


 それを聞いてお母さんはふふっと笑う。

「やっぱり奈々美には、好きな人がいたのね。高校に入った途端におしゃれに目覚めた感じがあったから」

「え……」

 お母さんにはわかっていたんだ。あの時ははるくんと会えるのがいつも楽しみで、デートの服を選ぶのにも時間がかかってた。まぁ今も似たような感じだけど。


「それに中学の時だっけ。他の子の話をする時は普通なのに、竹宮くんの話になると急に大人しくなってたわね」

「そ……それは……だって……恥ずかしくて」

 隣ではるくんも少し照れている。


「ねぇ……弦くんは知ってたの?」

「まぁ、中学生の時はよく2人で放課後に喋っていたな」

 先生が懐かしそうに笑う。

 あの頃の放課後の教室――夕陽の光と、少し照れた横顔がよみがえる。

「先生に“早く帰るんだぞ”っていつも言われてたな……」とはるくんが笑う。


「ふふふ……いいわね、中学生でそういうの♪」

 お母さんがにこにこしていて嬉しそうだ。

「あとは……いや、何でもない」

「え? なになに? 弦くんこっそり教えてよ」


 先生が何を思い出したのか私も気になってしまい、「先生、変なことじゃないですよね?」と聞いてしまう。

「いや……まぁ……肝試しの時に竹宮くんが走ってきたなと思って」


 肝試し……そう。

 あの修学旅行の肝試しがあってから、私とはるくんは少しずつ近づいていったと思う。先生と肝試しで歩いて、はるくんが暗い中で迎えに来てくれて……全部が中学校時代の淡い思い出。


「ん? 肝試しの話、そこまで聞いてないけど」

 しまった。お母さんには肝試しの話をあっさりとしかしていない。だって……先生と暗い中、手を繋いで歩いてたなんて。あの時はそれだけでドキドキして、先生のことを意識してしまったんだから。


 私が恥ずかしそうにしているのに気づいたのか、先生は「怖がってた奈々美さんのところに、竹宮くんが来てくれたんだよ」とだけ言っていた。

「あら……青春の1ページ。それで2人は付き合うことになったのね♪」

「いや……高校入ってからだから、お母さん」



 ※※※



 カフェを出ると、夕陽と紅葉がグラデーションになっているように見える。

「竹宮くん……これからも奈々美のこと、よろしくね」

「はい……こちらこそよろしくお願いします!」

「お母さんも身体に気をつけてね」

「奈々美もね」


 はるくんとの帰り道。彼が私の手を探すように指を絡めてきた。

「……松永に肝試しの話されるなんて思ってなかったよ」

「そうだね、びっくりした」


 あの時、私と先生が最後のペアで肝試しコースを歩いていたら、ゴール地点の方からはるくんが息を切らして走ってきたんだよね。遅いから迎えにきたみたいだけど……よく考えたら普通はわざわざ来ないよね?


「あの肝試しの時さ、奈々ちゃんのことがその……気になって」

「え……」

「松永を疑ってたわけじゃないけど……ちょっと悔しかったのもあるんだ」


 はるくん……もしかしてその時から、私のことを?


「あの時……はるくんが来てくれて、すごくドキドキしたよ」

「本当?」

「うん……嬉しかった」


 中学生の時の淡い記憶がよみがえってくる。

 彼と隣の席になって、少しずつ話すようになって……。


「席が隣同士じゃなかったら、はるくんに好きになってもらえなかったかも」

 私がこう言うと、はるくんは繋いだ手をさらにぎゅっと握り返してきた。


「違うよ。席が離れていたって、僕は君を好きになってた」

 

 その言葉が、秋の空気よりもあたたかく胸に染みていった。彼に真っ直ぐに見つめられ、顔が火照ってくる。

「うそ……私そんなに目立ってなかったのに」

「そんなことないよ。話すようになってからは、君のことばかり……目で追ってたと思う」


 心臓がバクバクと音を立てる。まさかあの時からだったなんて。確かに……気づいたら隣にいることが多かったな。


「……ありがとう、はるくん」

 夕陽があたたかく私たちを包んで、見守ってくれているように見えた。




 ※※※※※※※※※

 



 お読みいただきありがとうございます。

 ここで第三章は終わりです。次からは第四章、冬のエピソードが始まります。ちょっとした試練を乗り越えた先に、ふたりの絆が深まる予感。

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