第12話 静寂の森
――戦いの翌朝。
リオンたちは北の《ルゼルの森》へと足を踏み入れていた。
白の翼との交戦で深手を負ったカイルとイリスを休ませるため、
人の目から遠ざかったこの森を選んだのだ。
だが、森の空気は異様に静かだった。
風も鳴かず、鳥も声を落としたまま。
まるで時間が止まったような沈黙が、辺りを包んでいた。
「……気味が悪いな。」
カイルが呟く。
「まるで森そのものが俺たちを見てるみたいだ。」
リオンは足元の草を払いながら答えた。
「魔力が濃い。普通の森じゃない。何か、封じられてる。」
「封じられてる?」
イリスが眉をひそめる。
リオンはうなずいた。
「魔力の流れが歪んでる。中心に何かある……結界核みたいなものが。」
「つまり、行くしかねぇってことだな。」
カイルが剣を握る。
リオンは苦笑した。
「相変わらず単純だな、お前。」
森の奥へ進むにつれ、霧が濃くなっていった。
足音が吸い込まれ、世界が静止する。
そして、唐突に――
霧の中から、光が漏れた。
「……あれは?」
リオンが前に出る。
木々の間の小さな広場。その中央に、古びた祭壇があった。
石造りの台座に、淡く青白い球体が浮かんでいる。
それは鼓動のように脈動し、空気を震わせていた。
イリスが息を呑む。
「……きれい。」
リオンは慎重に手を伸ばす。
(これが、結界の核――)
指先が触れた瞬間、光が弾けた。
《――侵入者、確認。認証コードを提示せよ。》
無機質な声が頭の中に響く。
リオンは思わず後ずさる。
「今の、声……!?」
《認証不能。防衛機構、起動。》
次の瞬間、地面から光の柱が立ち上がり、
そこから金属の兵士たちが出現した。
無数の鎧が自動で動き、リオンたちを取り囲む。
「こりゃまた物騒な歓迎だな!」
カイルが剣を抜く。
「下がれ! こいつら、普通の魔物じゃない!」
リオンの叫びと同時に、兵士たちが一斉に動いた。
金属が擦れ、青白い刃が閃く。
リオンは創造剣を構え、斬り返した。
火花が散り、衝撃波が広場を揺らす。
「くっ……どこまでも硬い!」
「カイル、右を頼む!」
「任せろ!」
イリスが詠唱を始める。
「《聖光よ、護りの輪を――リベラ・サンクティア!》」
光の壁が展開し、仲間を包み込んだ。
「イリス、援護を続けろ!」
「わかった!」
リオンは息を整え、掌を掲げる。
《融合・創造式》を発動。
空間に青い陣が幾重にも重なり、
リオンの背後に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「模倣じゃない……今度こそ、俺自身の創造だ!」
陣の中心から炎の刃が放たれ、
兵士たちを一掃するように薙ぎ払う。
轟音が響き、光が弾けた。
だが、兵士たちはすぐに再生を始めた。
「なっ……!?」
イリスが絶句する。
リオンは奥歯を噛む。
「自己修復機能か。なら――」
彼は再び手をかざした。
《創造・干渉プログラム》
脳内に浮かぶのは、魔法陣の構造式。
リオンはそこへ“別の法則”を書き加える。
「……破壊より、制御を。」
光陣が一瞬、別の色に変わった。
金属兵士たちが動きを止め、その場で跪く。
静寂。
霧が晴れ、森に光が差し込んだ。
「リオン……今の、何をしたの?」
イリスが息を呑むように問う。
「創造ってのは、ただ作るだけじゃない。
存在の法則そのものを書き換える――そんな力なんだ。」
「……神の真似事だな。」
カイルが苦笑する。
「けど、マジで助かったぜ。」
リオンは祭壇へ歩み寄る。
球体――核の光は穏やかに脈動を続けていた。
「これ……古代の管理装置だ。」
「古代?」
「スキル文明よりも前。世界が今の形になる前の遺産だ。」
彼は静かに手をかざした。
青い光が反応し、声が再び響く。
《新たな識別を確認――創造権限、継承》
「……え?」
リオンの身体が光に包まれる。
《権限継承完了。記録媒体、解放――》
球体が砕け、無数の光が空へと舞い上がった。
それはまるで、天の星が降り注ぐようだった。
イリスとカイルが息を呑む。
「リオン……何が起きてる!?」
リオンは、頭の中に流れ込む膨大な情報に膝をついた。
古代文字、設計式、そして――神々の記録。
「……この森は、神造兵器の封印施設だった。」
「神造……!?」
「そして俺は、今……その鍵を継承した。」
リオンの瞳が金色に光る。
《創造スキル、進化――第二段階:概念干渉解放》
その声が消えた瞬間、リオンは意識を失い、倒れた。
夜。
焚き火の前で、イリスが静かに彼の顔を覗き込んでいた。
額には汗が滲んでいるが、呼吸は穏やかだ。
カイルが肩を竦める。
「まるで神話の主人公だな。無茶ばっかりしやがって。」
「でも……きっと、彼は何かを掴んだのよ。」
イリスが小さく微笑んだ。
焚き火の炎が、リオンの顔を照らす。
その表情は、穏やかで――どこか、強くなっていた。
その頃、王都レグナリア。
聖滅部本部の作戦室で、リゼルが膝をついて報告していた。
「――リオン・グレイ、健在。」
「そうか。」
低い声で応えたのは、密務局長バルドレイン。
「創造スキルの進化を確認。推定レベルは神話階層に到達。」
「……面白い。」
バルドレインは唇を歪めた。
「やはり、神々の予言は真実か。」
「どうなさいます?」
「まだ動くな。彼には“導く者”が必要だ。」
リゼルが目を細める。
「……まさか、紅蓮を?」
「そうだ。セラ・ノア。彼女を再び動かす。」
冷たい笑いが部屋に響いた。
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