『無能と呼ばれた少年は、追放の果てに全てを写す――スキルコピーで始める英雄譚』

夢見叶

追放と覚醒

第1話 無能と呼ばれた少年

 王都レグナリアの空は、鉛のように重かった。

 白い尖塔が並ぶ神殿区の広場には、十六歳の少年たちが列をなしている。

 今日は、年に一度の《スキル授与の儀》。

 神が人に与える天賦の力を知る日だ。


 ――そして、それが人生を決める日でもある。


 「次、リオン・グレイ」


 名を呼ばれた瞬間、リオンの心臓が大きく跳ねた。

 彼は深く息を吸い、青白い魔石がはめ込まれた祭壇の水晶盤に右手を置く。


 「……頼む、何でもいい。出てくれ」


 祈りにも似た呟きが、唇から零れた。

 光が瞬く。青く、赤く、紫に――

 けれどすぐに、すべての光が消えた。


 広場に静寂が落ちた。

 測定士の老人が無表情に告げる。


 「――スキル、未発現。」


 ざわめき。

 やがて、それは嘲笑に変わる。


 「やっぱりか、無能のリオン」

 「訓練場でも最下位だったもんな」

 「スキル無しで騎士団志望とか、冗談きついぜ」


 言葉が矢のように突き刺さる。

 リオンは唇を噛んだ。

 痛みが血の味を連れてくる。


 「……もう一度、お願いします」


 かすれた声で訴える。

 だが測定士は首を横に振った。


 「二度目はない。神の審判は絶対だ。」


 その言葉が、全ての希望を断ち切った。


 王都の騎士団本部。

 石造りの廊下を歩くリオンの背後で、誰かが嘲るように言った。


 「無能は帰れ。王国の剣に穢れはいらん」


 声の主は、同郷の少年ライネル。

 彼のスキルは《剛剣》――肉体強化と刃の共鳴を合わせ持つ希少なものだ。

 騎士団内でも注目株の彼にとって、リオンはただの“落ちこぼれ”だった。


 「……俺は、努力して――」

 「努力? スキルが無い奴の努力なんて、時間の無駄だろ?」


 その瞬間、リオンの拳が震えた。

 殴りたかった。

 でも、そんなことをしても何も変わらない。


 「お前の居場所は、もうここにはない」

 ライネルの冷たい言葉とともに、金属の扉が閉ざされた。


 三日後。

 王都議会の決定は下った。


 「リオン・グレイ。スキル未発現者として、王都からの追放を命ずる。」


 それは淡々とした宣告だった。

 情けも、説明もない。


 リオンは一礼し、ただ背を向けた。

 誰も見送らなかった。


 ――王都の外れ。


 灰色の空の下、石門がゆっくりと閉ざされていく。

 その音を背に、リオンはひとり歩き出した。


 行くあてもない。

 金も、宿も、仲間もない。


 だが、それでも足を止めなかった。


 (こんなところで終われるか。俺は――まだ、何も始めちゃいない。)


 風が頬を打つ。

 遠く、雪をかぶった山脈が見える。

 そこに、自由がある気がした。


 リオン・グレイ、十六歳。

 無能と呼ばれた少年の旅が、今始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る