「デュナミス・クロニクル ~英雄の背を追う少年~」
神田 双月
第1話:覚醒の朝
朝の光が、静かな学園の講堂に差し込む。白い大理石の床に反射する光は、まだ眠っている街の景色を揺らめかせていた。リオ・フェルネスは深く息を吸い込み、少し緊張した足取りで講堂の奥に進む。今日、彼は15歳を迎える。そして、15歳になったデュナミスが必ず迎える――「覚醒の日」を迎えるのだ。
覚醒の日は、デュナミスの家族や親族、学園の教師たちが見守る中で行われる。講堂にはすでに多くの生徒が集まり、座席に静かに腰を下ろしている。緊張と期待が混ざったざわめきの中で、リオの心臓は早鐘のように打っていた。
「リオ・フェルネス……覚醒の儀式に臨む準備はできているか?」
教授の声が講堂に響く。壇上に立つのは、異能学園の理事長でもある老練な教授、カレン・ヴァルド。彼の銀色の瞳は深く澄み、世界の危機を何度も見届けたかのような威厳をたたえている。
「はい……!」
リオは力強く答えた。口に出す声よりも、胸の奥で高鳴る期待と不安が大きかった。彼は幼いころから、英雄の伝説に心を奪われてきた。「200年前、異界門を閉じた英雄――その背を、いつか自分も追うんだ」と、何度も自分に言い聞かせていた。
講堂中央の祭壇には、異界反応装置が静かに光を放っている。青白い光の粒子が宙に舞い、空間のわずかな歪みを示していた。教授は穏やかに手を掲げる。
「今日、覚醒する者たちよ。お前たちの力は、人類の未来を変える。血に宿る英雄の遺志を、どうか忘れるな」
その言葉に、リオの胸の奥で熱いものがこみ上げた。幼い頃からずっと夢見てきた瞬間――ついに、自分の力が目覚めるのだ。
順番が回ってきた。リオは祭壇の中央へと進む。周囲の光が彼を取り囲み、心臓の鼓動が耳に響く。手のひらを差し出すと、装置から飛び散る光の粒子が指先に吸い込まれるように宿った。
「……すごい……」
光が手のひらから零れ、空間に淡い波紋を描く。リオは手を左右に動かし、力を確かめる。小さな重力の揺らぎ、光の粒が空中で形を変える感覚。体中に電流のような興奮が走る。
その時、講堂の奥の影が不意に揺れた。ざわめく生徒たちの視線が一斉にそちらに向く。影は形を持ち始め、黒い塊が床を這うように動く。小規模テラス――まだ小さな、だが異界から現れた存在だった。
「リオ! 落ち着け!」
隣に立つ銀髪の少女、アイリス・レンツの声が響く。彼女は冷静で、異能の扱いにも長けた才女だ。目の前の影を見据え、手に光を宿す。
「……わかってる!」
リオは深呼吸をし、手のひらの光を集中させた。空間操作能力――自分の能力の核心を、初めて実戦で試す瞬間だ。光の波紋がゆっくりと広がり、影に触れると、まるで押し返されるように黒い塊が後退する。
テラスは断末魔のような声を上げ、光に包まれて消えていった。講堂には再び静寂が戻る。生徒たちの視線はリオに注がれ、ざわめきの中で称賛の息が漏れた。
「す、すごい……初めてであれだけ使えるなんて」
アイリスが小さく笑う。リオの胸は興奮でいっぱいだが、同時に戦いの厳しさを知る。異界の力はただの試練ではない。世界を脅かす脅威が、いつも背後にあるのだ。
「俺……これから、あの英雄の背を追うんだ」
リオの目に決意が宿る。覚醒の日――それは、ただ力を手に入れる日ではない。世界を変える戦いの序章なのだ。仲間と共に歩む道、異界との戦い、そして未知なる力――すべてが今、リオの目の前に広がっている。
講堂を出ると、外の朝日はより一層明るく、世界を照らしていた。リオは深く息を吸い込み、胸の中で小さくつぶやく。
「俺が、世界を守る――」
少年の覚醒は、ここから始まった。
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